4 side R ページ38
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「二人は離れ離れ。で、月日が経ってマルグリットは危篤になります。それを知ったアルマンは彼女の元に向かう」
「ハッピーエンドだ？」
「ううん。 アルマンは急いでパリへ向かうけど間に合わなかったんです。マルグリットはアルマンへの愛だけを希望として孤独に短い生涯を終えます」
「……それで終わり？」
「最後、アルマンはマルグリットが残した手記を読むんです。そこでようやくマルグリットの本当の気持ちとその最期の日々がいかなるものであったか知って彼女のお墓の前で泣き崩れる……」
「最悪じゃん……」
「この時代の話はこういうの多いですよ。オペラ版はもう少し救いがあるかな」
Aはゆったり笑い、椿の花をひと撫でした。
「……その話から何で“罪を犯す女”なの？」
「え？」
「何が罪？」
「えっと……嘘をついたから？」
「……そうかなぁ“罪を犯す女”かもしれないけど、その罪はきっと悪い意味じゃないんじゃないかなぁ……うん」
「隆二さんは優しいですね、やっぱり。こういう時の解釈も優しい」
目を細めて俺を見る彼女の髪を、ゆっくり撫でた。
「Aみたいだから」
椿姫は自分の評価よりも相手の幸せを願って行動した。
泥をかぶってでも誰かのために必死にやる姿は、本当の美しさ。
地に落ちても美しい、椿の花みたいに。
「私みたい？」
「うん……でも急に居なくなったりしないでよ、嘘ついたりして」
「しませんよ！隆二さんに“離れろ！”って言われても離れないから！貫一お宮の像みたいに」
「貫一お宮って何だよ」
「金色夜叉ですよ！もー、隆二さんは文学に触れないと、文学に。長文を読み、行間を読み、語彙力を増やすんです。語彙力はその人の知性ですから！」
な、何か説教されてるんですけど。
「よーし！朝御飯にしましょう！何が良いですか？」
「だし巻き」
「はい」
満面の笑みで頷いたAはキッチンに入り、
俺はリビングで携帯を手にして、検索をかけた。
「えーっと……」
“オペラ 椿姫 チケット”
「……良かった、携帯壊れてない」
「何か言いましたー？」
「何もー！」
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作者名：ぽち。
| 作成日時：2018年5月23日 18時
