雪椿の頃。10 (ページ35)

今日:33 hit、昨日:54 hit、合計:358,720 hit

椿姫。ページ35

・

蕾のまま、じっとしていた椿が

今朝、花を咲かせた。

“今だ！”と、狙ってたみたいに。

「……やっと咲いた……綺麗」

ぽってりとした見事な花を眺めていると、背後で「おはよー」と四季の声がした。

振り向くと、四季がベランダの隔て板から顔を覗かせていた。

「おはよ。ごめん、うるさかった？」

「ううん。朝からベランダでどうしたのかなぁと思って」

「椿咲いたの！」

「うそ！どれ！どれ！」

私は鉢植えを動かし、四季の部屋の方へと移動させる。

「どう？見える？」

「見えた見えた！すごくない！？初夏に咲く椿！」

「だよね！？」

「写真撮りたい！」

「うちの部屋来る！？」

「行く！……あ、待って。隆二さん居るんじゃないの？」

「うん、寝てる……裸で」

「気まずいな……」

四季は一旦部屋に入り、携帯を手にしてベランダに戻ってきた。

「ちょっ、これで撮って」

四季から受け取った携帯で椿の写真を撮り、またそれを四季に返した。

「岩田さんに見せよー……」

画面をタップしながら部屋に戻った四季の背中を見送り、私は椿に水をやる。

「よし」

そして、一緒にこの感動を味わいたくて寝ている隆二さんの上に飛び乗った。

「隆二さん！起きて起きて！」

「んー……」

「起きてー！起きてー！」

ベッドの中の隆二さんは、眠そうに顔をしかめ“はいはい”と言う風に私の脚にタッチした。

「もー！起きてー！」

「……眠ーい……キンキン言わないでー……」

「キンキン？キンキンが嫌なんだ？じゃあこれはどうですか？」

枕元に置いてあった隆二さんの携帯を握り、私はサイドボードにそれをぶつけた。

「ガンガンですよ、これなら。ほら、ガーンガーン」

「……ん？……おいー！それ俺の携帯！壊れる！」