2 side R ページ36
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「壊れたって良いじゃないですか。この携帯“隆ちゃん……隆ちゃん居る？……隆ちゃん……隆ちゃん”って電話かかってくるから凄く怖い」
「……この世のものからの電話じゃねぇなそれ」
Aはわざとしわがれた声を出し「隆ちゃん、起きて」と俺の体を揺さぶった。
「分かった分かった」
笑いながら起き上がった俺はAにハグをし、手早く着替えを済ませる。
「で？ご用は何？」
「椿、咲いたんです！」
「え？」
Aは跳ねるようにベランダに出て、早くおいでと俺を手招きした。
朝の真新しい風が吹くベランダに足をおろすと、すぐにそれが目に入った。
「あ！本当に咲いてる！」
「でしょー？」
Aは重そうに鉢植えを引き摺り、ベランダの真ん中に持ってきた。
その姿はまだ付き合う前、ベランダから玄関へと必死に鉢植えを運んできた彼女を思い出させる。
「俺、もう咲かないんだと思ってた」
「私も……ちょっとだけ」
鉢植えを挟んでベランダに座り込み、俺たちは微笑みをかわす。
「雪の重みで少し背が低くなっても、雪が溶けたら元通り復活する。そういう強さと、花が赤くて綺麗だから好きなんだよね？」
「隆二さん、覚えてたんですか……」
「覚えてるよー？あと、椿は鳥媒花」
「そう！」
Aはニコニコとした笑顔で、空を舞う鳥を見上げた。
「花言葉は？」
「椿の？」
「うん。知ってる？」
「赤い椿の花言葉は、謙虚な美徳、控えめな素晴らしさ、気取らない優美さ」
────彼女のことだと思った。
全てが控えめで、でしゃばらず
かと言って影に隠れているわけでもない。
気が付くと目を奪われている、彼女のことだと思った。
「あと、椿には裏の花言葉があるんですよ」
「裏？」
「うん。“罪を犯す女”」
「……え？」
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作者名：ぽち。
| 作成日時：2018年5月23日 18時
