赤に咲く。 ページ30
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────「ただいまー」
実家の玄関を開けると、奥から豆が凄い勢いで走ってきた。
「豆ーー!!元気だった!?」
鼻を鳴らしながら私に飛び付く豆を、私はこれでもかと撫で回す。
「心配かけたねぇ。あとでお散歩行こうね。ね!」
千切れるくらいに尻尾を振っている豆を引き連れ、私は「お母さーん?」と呼び掛けながらリビングに入る。
「あ、おかえり。出しといたよ耐熱容器」
「ありがとう!」
隆二さんとの記念日ディナーは、私の部屋ですることになった。
今日がその日で、私は料理に使う蓋付きの耐熱容器を実家に借りに来たのだ。
「何作るの?それで」
「ツナキャセロール。どんなのかは聞かないでね。私も初めて作るから」
「はりきっちゃってー」
「美味しく出来たらお父さんとお母さんにも作ってあげるね」
「期待しないで待っとく」
笑う母は豆の頭を撫でながら「検査どうだった?」と私に訊ねた。
「問題なかった。経過が凄く良いって!」
「そうなんだ?良かった、ちょっと安心」
「ごめんね、心配かけて」
耐熱容器が割れないように大きなタオルで包みながら、私はリビングの棚に目を向けた。
「ねぇねぇ、あの写真いつまで飾るの?」
夢と魔法の国で赤いリボンのカチューシャをつけた小さい頃の私の写真。
もうずっと飾ってある。
「この頃が一番可愛かったから飾ってる」
「今はー?」
私は苦笑いをし、また写真に目を向ける。
「……私、可愛い靴履いてる」
「そうそう、覚えてない?お祖母ちゃんから貰った靴。椿が付いてるの。ほら……シャネルのカメリアみたいなやつ」
「シャネルのカメリア?」
棚の方に移動して写真立てを手に取り、私は小さい頃の私の足元をじっと見た。
「本当だ……」
黒いエナメルのバレエシューズには、赤いカメリアのコサージュが付いていた。
「これ、凄く寒い日だったよね。私、モコモコだもん」
「そうそう。2月?3月?とにかく寒い日だった」
「私……麻酔にかかってる間、このときの夢見たんだよね」
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2018年5月23日 18時