雪椿の頃。10 (ページ31)

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「迷子になったときの？」

「うん……どうしてだろ？って思ってたけど、この靴が頭に残ってたからかも」

“そういうことか”と納得している私の足元に、リードを喰わえた豆がトコトコと歩いてきた。

「ん？豆、もうお散歩行きたい？」

「A、時間は大丈夫なの？お祝いするんでしょ？」

「大丈夫大丈夫！隆二さん帰ってくるのまだまだだから。じゃあ豆行こ！」

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たっぷり1時間かけて豆と散歩をしたあと、私は豆におもちゃの快気祝いを渡し、ずっしり重い耐熱容器を抱え自宅に戻った。

あれこれ料理を作ってみたものの、どれもこれもデーンとした大皿料理。

「アメリカの料理本は侮れないな……」

サラダボウルに仕上げのアーモンドを散らした頃、仕事を終えた隆二さんが部屋にやってきた。

「おかえりなさい！」

「ただいまー。玄関開けたときからめっちゃ良い匂いした」

「本当？ちょうど全部出来上がったとこなんです！座って座って」

「うん」

ただいまのキスをお互い頬にして、私はテーブルをセッティングする。

検査のあと解禁になったお酒と、２つのグラスを添えて。

「ワインにしちゃいました。何かお祝いっぽいから」

「なるほどねー」

深紅のワインをグラスに注ぎ、私は目の高さにそれを持ち上げた。

「えっと……何に乾杯したら良いんでしょうか」

「何に！」

隆二さんは声を上げて笑って「そうねぇ」と視線を宙に泳がせた。

「今までの２ヶ月と、これからの３ヶ月目に。どう？」

「良いですね、それ」

「うん、じゃあ」

私たちは目を合わせ、何となく照れ笑いをする。

こんな風に改まって乾杯するのが、久しぶりで。

「乾杯」

「乾杯」

グラスが重なった小さな音が部屋に響いた。

甘めのワインが口いっぱいに広がって、

どうにも頬が緩む。