4 side T ページ18
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────Aに押し込まれた玄関先で、俺はポリポリと頭をかいた。
「……寝てるのになぁ」
このまま突っ立っていても仕方ないと、靴を脱いで部屋に上がると奥にあるベッドが小さく膨らんでいるのが見えた。
荷物をおろし、こちらに背中を向けて寝ている四季の隣に寝転ぶ。
「四季ー……」
「………」
彼女の背中を抱き締め、優しい香りがする髪に鼻を押し付けた。
「……寝てんのー?」
「……寝てまーす」
「……起きてんじゃん」
小さな笑い声が、四季の背中を揺らす。
「ごめんね、こんな遅くに。最近忙しくて」
“大丈夫”と言うように、四季は抱き締めている俺の腕を軽く叩いた。
「……私の両親ね、医者で忙しくて全然家に居なかった」
「あ……うん」
「好きな人が出来ると独り占めしたくなるのは、きっと小さい頃構ってもらえなかったから。この歳になって育った環境のせいにはしたくないけど……きっとそう」
真っ暗な部屋で、ベッドに二人寄り添い、俺は彼女の話に耳を傾ける。
「愛されてなかったなんて思いません。必ず年に2回は家族旅行に連れて行ってくれたし、私の誕生日だけは両親とも休んでくれた」
「うん」
「父が忙しいのは何となく納得出来てました。よそのお家もそうだったから。でも、母が家に居ないのは嫌だった」
「うん」
「母は患者さんの悪いところは焼くけど、私にお菓子は焼いてくれなかった。患者さんの皮膚は縫うけど、私のレッスンバッグは縫ってくれなかった」
「うん」
「母も、時間があればそういうこと私にしたかったって、今なら分かるけど……」
「そうだね……」
「Aはきっと、良いお母さんになると思う」
「なんで?」
「Aは料理出来るし、マフィンも焼く。それに……ボタン縫う」
「そっかそっか」
俺はちょっと笑って、四季の首に唇をつけた。
「四季も良いお母さんになるよ」
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2018年5月23日 18時