隣の恋人たち。 ページ11
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その日、私は久しぶりに朝から出掛ける支度をしていた。
シャワーを浴びてメイクをして髪をセットする────今まで何となくしていたことに少し手間取る朝。
「おはよ、早いね」
寝室から出てきた隆二さんが、ピアスをつけている私の頬にキスをした。
「おはよ、隆二さん。今日、事務所行くんです。色々申請しに」
「色々?」
「そう。休んでる間の手当ての申請とか色々。朝御飯は冷蔵庫に入ってます。あ、コーヒー飲みます?」
「うん、飲む」
カップボードからお揃いのマグカップを取り出し、私はインスタントのコーヒーをお湯で溶かした。
「どうぞ」
「ありがとう」
ソファに座ってゆったりとコーヒーを飲んでいる隆二さんと、その傍に立ったままでマグカップを握り締めている私。
「……A、座ったら?その脚線美を俺の目の高さに合わせてくれてるなら別だけど」
「……落ち着かないんです。久しぶりに事務所行くから……緊張する」
「何で!みんな何も変わってないよ。“久しぶりー!”“元気だったー?”で、元通り」
「そうかな……だと良いけど」
「何をそんなに緊張するわけ?」
分からない。分からないけど、私は昔からこう。
風邪を引いて学校を休んだ次の日は、緊張してたタイプ。
「ねぇ隆二さん。私、変なとこない?服、おかしい?」
「おかしくない、似合ってる。でも……」
隆二さんは私の腕を引っ張ってソファに座らせたあと、後ろ髪から何かを引き抜いた。
「カーラー、ついたまんま」
「……うわ」
「書類を出すだけなんでしょ?大丈夫、何の問題もない」
「はい……じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
マグカップを軽く持ち上げた隆二さんに見送られ、私はマンションをあとにした。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2018年5月23日 18時