色戀、召しませ。5 (ページ3)

今日:17 hit、昨日:24 hit、合計:1,312,960 hit

3 ページ3

・

まるで引きずり込むように隆二さんは扉の内側に私を引っ張った。

背中で聞いたのは、ガチャンと扉が閉まる音とロックがかかった電子音。

一ヶ月ぶりに、隆二さんと向かい合った。

言いたいことはたくさんあるのに、何を口にすれば良いか分からなくて

私たちは、無言で見つめ合った。

私は、この揺らぐ瞳も好きで。

「………走ってきたの？」

「途中から……車が、混んでて……」

隆二さんが私の指先に触れる。

「危ないよ、こんな時間に」

「でも早く会いたかったから」

「だから俺が行くって言ったじゃん。俺のが足速いからね」

どことなく緊張したような顔をしていた隆二さんが、やっと笑った。

私は相変わらず泣きっぱなし。

「そんな顔して……」

抱き締められて余計に涙が出てきた。

「泣かない、泣かない」

“子供扱いしてる”と言う、はるちゃんの言葉を思い出した。

嫌でも大人扱いされている私には、くすぐったい。

ピピッと電子音がして、私たちの横でガチャンとドアが開く音がした。

隆二さんの腕の中でよく見えなかったけど、誰か入ってきたみたいで

彼は「やばっ」と囁いて私を抱いたまま、ちょこちょこ足を動かしてドアに背をむけた。

その動きが可笑しくて私はやっと小さく笑う。

「あんまり人が出入りしないから裏口が良いとか言って、早速来てるじゃないですか」

「ねー？」

私たちの横を通りすぎた誰かを乗せたエレベーターが閉まる音がした。

隆二さんは腕を解いて、私を見る。

「番号知ってるから待っててくれたらお部屋まで行きましたよ私」

「早く、こうしたかったから……此処で待ってた」

こんな甘いことを言う人なんだ……。

言いそうで言わない人だと思ってた。