色戀、召しませ。5 (ページ2)

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「ちょっと詰まってますかねぇ……」

運転手さんの言葉に前を向いたら、テールランプが列をなしていた。

「あの、降りますここで」

ここからなら隆二さんちのマンションまで、そう遠くない。

車を降りて私は走った。

風が通り過ぎるたび、指が耳が悴んで冷たくなったけど、足は止められなかった。

“世界で唯一走れるピンヒール”を履いてきて良かったと思う。

──素敵な靴を履くと、素敵な場所へ連れていってくれる。

私はこの言葉が好きだ。

今まで歩いてきた道はボコボコで、綺麗に舗装されたとこなんてなくて

だから、せめて靴は綺麗なものを履きたかった。

いつかその、素敵な場所へ行けると思ったから。

裸足で泣いていた私は、もうどこにも居ない。

「あ……」

マンションが見えてきてから“裏口の方が良いかな”と言う彼の言葉を思い出した。

息を切らしながら裏口に回る。

木製のドアの両袖がガラスになっている裏口。

そのガラスにもたれて腕を組んでいる彼の背中が見えた。

あの夜、見送った背中。

まだ振り向かないでと願う。

ちゃんと笑顔で会いたいから。

彼の携帯に入っている私の写真みたいに、笑って会いたい。

あの夜みたいな、泣きたくないから笑った顔じゃなくて

ちゃんと笑顔で。

思えば思うほど、涙が出てきた。

私の涙腺はどうかしてると思う。

ガラス越しの背中だけで、こんなに泣けるものだろうか。

悴んだ指で涙を拭いたら、隆二さんの頭が少し動いた。

変なとこにするどい彼は、顔をパッとこちらに向けて私を見付けてすぐにドアを開けた。