落下地点。side T ページ42
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俺が隆二さんのグラスに注いだビールの泡は、とっくに消えている。
「隆二さんから誘ったんじゃないよね?」
俺はチラッと隣の女を見ただけだけど、真希はガン見してた。
「あなたから、誘ったんですか?」
「はい………」
真希は、きっとこんな風に生徒指導してるんじゃないだろうか。
「何に誘ったの?食事?」
「はい」
「今市さんは、誘いに乗ったから二人は此処に居るんですよねぇ………」
で、誰なの?この女。
「以前、仕事を一緒にして」
隆二さん、教えちゃったのかなぁ連絡先。
駄目だよ。どんな人か分からないのに。
「あなた絶対SNSで匂わそうと思ってたでしょ?今日のこと。ねぇ?」
何か………口頭弁論?
「怖いですよー、下手したらあなたの私生活丸裸ですよー。生まれた日から今日に至るまで全部」
先生も大変なんだなぁ。色々。
「真希、隆二さんにも弁解の余地を」
隆二さんは水の入った方のグラスに手を伸ばした。
「今市さん、この人とどうかなりたいんですか?」
「どもうなりたくないよ」
「ではどうぞ」
「え?」
「もう、追い掛けて良いですよ」
隆二さんは、もう一口水を飲んで少し笑った。
「ちょっと意地悪すぎない?もう15分は経ってるよ」
「あれー?知らないんですかー?Aは方向音痴なんですよー」
15分、迷いに迷ったAは少し頭も冷えてるだろうし………不安だろうし………
「新宿駅の地下に放り込んだら3日は出てこれないような人だから、まだそこら辺に居ますよ」
真希が言い終わるかどうかで、隆二さんは立ち上がって店を飛び出していた。
「ね?追い掛けたでしょ?」
「一回引き留めたくせに」
「今市さん、テーブルの下でずっと貧乏ゆすりしてた。お酒も飲まなかったし。勢いで追い掛けたわけじゃないですよ」
勢いじゃないってことは………隆二さん、ずっと好きだったのかな。
やっぱり、よく分からない人だな。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2015年10月2日 19時