イカロスの鍵。 (ページ17)

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早々と終了した会話に困っていた所に、ぽんっと置かれた艶っとした玉子を口に入れた。

「美味し……」

思わず出た言葉にカウンターの中の人が私に微笑みかける。

「もうひとつ、玉子を」

私は延々と玉子を食べ続け

「ねぇ、俺そんなケチじゃないんだけど」

「分かります。さっきからトロばっかですもんね」

「じゃなくて、奢るから好きなの食えよ」

「食べてますよ？」

「玉子そんなに好き！？」

「じゃあ、かっぱ！」

「だから！」

「ナマモノ、駄目なんです」

「「え！」」

カウンターの中の人と隣の人が同時に驚いた。

「え、いや、じゃあ言おうよ」

「でも、玉子すっごく美味しいです！今まで食べてきた玉子って何だったんだろ」

「…………なら、良いけど」

隆二さんが、最終手段とはいえ私を誘ってくれたこと。

美味しいお店だったこと。

「どうぞ。たくさん褒めてくれたから」

そう言ってナマモノ以外のネタがこれでもか！と乗ったお皿をサービスしてくれたこと。

単純な私には幸せな日。

「あーお腹いっぱい！ちょっとお手洗い行ってきます」

そろそろ彼も食べ終わりそうだったからマナーとして席を立った。

トイレの鏡に映った自分の顔が、何となくニヤついてたからグッと引き締めて席に戻ったら

「あれ？」

隆二さん居ない。

「外で待ってますよ」

「あ、そうなんですか。ビックリした……ごちそうさまでした！」

「またどうぞ！一人でも」

本当に一人でも来ようと思いながら頭を下げて、お店を出た。

隆二さんはお店の外で、携帯をいじっていた。

「ごちそうさまでした！」

「ん？あ、うん。どういたしまして」

ゆっくり歩き出した彼の隣に私も並んだ。

こう言うとき、本当に何て会話を始めたら良いんだろ。

お話し出来ない口が寂しくて、私はカバンからガムを取り出して一気に３つ口に入れた。

「自分だけ？」

「あ、ごめんなさい」

ボトルごと差し出したら、彼は細くてきれいな指で２つ摘まんで口に入れた。