終夜、鳴く (ページ25)

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海のそこページ25

空から落ちてくる滴は、赤かった。

そうだ、自分の周りはいつも赤い。

「子鴉丸!! 一人で突き進むなッ」

白かったこの身が穢れるまで…
いや、今は黒いか。

「ははっ…」

突く、刺す、退けて斬りつける。
単純な作業、黒い翼に、赤い滴が落ちてきた。

「子鴉!! 陣形を乱すな!!」
「かてばいいんでしょ？」

ぼそりと呟いた言葉は、自分でも驚くほど冷たかった。
でも、体は燃え上がるように熱い。

「へびなんてちょちょいのちょい、だぜ？」

血で滑る手を見つめ、服の一部を切り裂いた。
布を手と柄にぐるぐると巻き付ける。

「あまくにがさく、子鴉丸、いくぜー？」

◆

「…子鴉丸!!」

鶴丸はすべての敵を斬り終えたあと、黒い刀剣の華奢な肩を掴んだ。
俯いたままだった彼女はその朱金の瞳は恐いほどかっぴらいている。

「勝手な行動は謹め!! お前一人で戦ってるわけじゃないんだぜ？」

ぎゅっと剣の柄を握りしめる。
そして、峰についた血を払った。

「おれ、あのとき、うみにきえるはずだったのに」
「あ？」
「おれ、あのとき、へいけとともにうみにきえるはずだったのに」

視界の端に、幼子が見えた。
まだ幼かった彼が、老いた彼女に抱えられて船から飛びはいる様が。

少年の純朴な瞳と、目があって。

『子鴉は？一緒ではないのですか？』

なにもわかっていない、その姿に思わず体が戦慄いだ。
自分は彼のものではなかった。でも、このまま自分も海のそこへと消える身だ。

『ええ、共に、参りましょう』

自分はこのままいけば、朽ち果てるだろう。
文字どおり、冷たい海のそこで、錆びて、朽ちて、消えていく。

数百年生きて？、冥土まで共に行こうとまで思える相手がいたから。

「なんで…おれは、…私は、生きてるの」
「…なにを」
「にんげんってかってだね、ともに逝こうっておもってたのに」

急な彼女の変化に、他の面々は戸惑うばかりで。

「ひどいよ…」