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受かろうなんて思わないから ページ23




「……敦君、お願い。爆弾魔の気をそらして」




私は気が付けばそう言っていた。声が震えていたかもしれない。それでも、それでも私はナオミちゃんを助けなくてはいけないと思った。



何故そう思ったのかは、明確には判らない。でも、ただ一つ理由をあげるとするならば、ナオミちゃんの表情を見たことがあったからだ。

絶望が眼前にあるというのに諦めず助けを乞うて。精一杯強がって。


(……ナオミちゃんの表情は、あの時の果奈そっくり。)



見捨てるなんて最早選択肢にはない。ナオミちゃんを見捨てたら、顔向けが出来ない。





「えっ!?ぼぼぼ僕には無理だよ!」



引け腰の敦君。無理もない。下手すれば爆発してしまう。

でも、でも私達は助けなければいけない。原作に沿うためにも、ナオミちゃんを助けるためにも。


ここで引いちゃいけない気がしたから。






「無理でもやって。お願い。絶対に、助けなきゃ」



敦君の肩を掴んで私は言った。

私の歪んだ瞳は敦君をも歪んで映した。その申し訳なさに胸がキュッとなっていくのが判る。



もしこれで敦君が受からなかったら私の所為だ。



でも。





「三十秒だけでいいの。絶対成功させるから」





私の熱弁のおかげか、敦君はしぶしぶ頷いてくれた。

太宰さんが敦君に新聞を渡している間に、谷崎君には見えない反対側の机まで移動した。




私もちゃっかり受かればいい。なんて思ってない。ここでナオミちゃんを助けなかったら文ストファンとしてあるまじき行為だし、例え演技だとしても誰かを見捨てたくない。今まで考えてきた私の一片の汚れの無い正当化された理由を合わせれば、矛盾した考えかもしれない。でも、今を生きなければ意味が無いのだ。今、ナオミちゃんを助けなければ意味が無いのだ。


大事なのは、今この状況をどうにかしないといけないという事。そして。今日の寝床を確保しなくてはいけない事。それだけだ。

まずは一つ目の、目の前にある事件の解決をするのみ。





「や、やややややめなさーい!親御さんが泣いてるよ!」


「な、なんだアンタっ」




始まった。



みっともない裏返った声、それに輪をかけてヘタレを醸し出している暴虐感。どれをとっても決して格好いいお兄さんとは言えない二人。

その姿が生で見られることの素晴らしさを噛み締めながら、ナオミちゃんに一番近づける机の影に身を隠した。




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作者名:赤菊 藍 | 作成日時:2017年9月19日 17時

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