はじまり ページ50
『そっか…』
信じられないことに、呆然とする
あの糸師くんが私のことを…。
"好き"なんて言われたわけではないけれど、これが彼の精一杯の表現なんだろう
今までの糸師くんを見てればわかる。
『じゃあ…改めて、これからよろしくね、糸師くん』
でもいつか…
いつか言葉にして、糸師くんの口からその気持ちが聞けたらいいなー…なんて。
そんなことを思っていた
すると、
「それ…どうにかならねーのかよ」
『ん?それ…って?』
「その呼び方…」
不満を感じているのか、心なしかムスッとした糸師くん
「お前、あいつらのこと親しげに呼んでただろ。
あいつらのことは名前呼びなのに、それ以上の俺のことは名字呼びじゃねーか」
改めて考えればそれもそうか
親しいだけの先輩達を名前呼びなのに、それ以上の関係になった糸師くんのことを名字呼びっていうのもおかしな話だよね
『じゃあ…り、凛くん』
初めて呼んだ好きな人の名前
まだ呼びなれないことに気恥ずかしさを感じ、顔が熱くなる
「………凛」
『…え?』
少しばかり黙っていた彼が、口を開くとそう言った
そして私のことをじーっと見つめる
「ほら、呼べよ」
『えっと…凛………………くん、』
「あ?」
『ご、ごめんなさい!でも…初めて好きな人の名前…呼んだんだよ?
今の私には…それが精一杯で…。段々呼べるようには頑張るからっ。だからっ⸺』
スカートをぎゅっと握る
糸…⸺凛くんは何も言わない
ガッカリされてるかな…
しばらくすると、私の上に大きな手が置かれた
顔を上げると、凛くんはまたそっぽを向いていて目は合わなかった
「そんなことで泣こうとするな…。今は…それでいい」
不器用ながらも私の頭の上でポンポンと彼なりに励ます様子は、
凛くんなりの優しさを表しているようだった
『凛くん…ありがとう』
これが、私達二人の始まりだった
傍から見ればアンバランスにも見えるとはおもう
実際私でさえ、信じられないのだから
それでも私は、今の関係になれたことが嬉しくて、好きな人とお付き合いすることができて
それ以上は何もいらなかった
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作者名:あれん | 作成日時:2023年7月17日 23時