久しぶりの会話 ページ42
「それでは、お帰りの支度ができたら総合受付までお願いしますね!」
私達を見て微笑ましげに出ていく看護師さん
できれば私達をいま二人にしないでほしいというのが、本心である
そして静まり返る病室がおとずれる
耐えられない空気の中、私は勇気を振り絞り声を発する
『あの……もしかして助けてくれたのって…糸師くん…?』
あくまでも、糸師くんの方は見ずに問いかける
返事はない
けれど、私にはわかる
糸師くんは、違えば違うとすぐに否定する
助けてくれたのは糸師くんだ
『えっと………ありがとう…』
でもなぜ糸師くんが…
頭の中でぐるぐるといろんなことが渦巻く
それにだ。
助けてくれたのは恐らく昨日。なのになぜ翌日の今日までこうしてここにいるのか
それが私にはわからなかった⸺
でも大方、私の意識が戻らなければ、助けた張本人である糸師くんが目覚めが悪い…
きっとそうだろう
布団のシーツをぎゅっと握る
『助けてくれたことには感謝してます。ありがとう。けど、糸師くんはもう帰って?あとは私一人でできるから』
チッと、小さく舌打ちが聞こえた
そうだよね、こんなとこに翌日も来なきゃならないという気にさせてしまったのだから
迷惑…だったよね
『ごめんね、迷惑かけて…。だからもう帰っ⸺』
「んなこといいから早くしろよ…」
私の言葉はあっけなく糸師くんの言葉でかき消されてしまった
それはいらついたような、けれどどこか寂しげな声でもあった
『いや、だからほんとに⸺』
「外にいる」
有無を言わさないよう、完全に私の言葉を無視する
そしてカーテンを抜けると病室の外へと姿を消した
唖然としてしまった私は、動き出すまでにしばらくかかった
これはもう、送ってもらう流れになってしまっている
糸師くん…勝手だよ
私の気持ちも知らないのに…
身支度を始めると、まずは自分のメガネに手を伸ばす
が、どこを探してもメガネは見当たらない
仕方がなく、時間はかかりながらも支度を終えて病室を出ると、壁によりかかる糸師くんが目に入る
『お、おまたせ…しました。あの、糸師くん。私の…メガネ…知りませんか?』
きっと糸師くんなら知っているはず…
するとすぐに深いため息が聞こえる
「ぶっ壊れてるに決まってんだろ…バカか」
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作者名:あれん | 作成日時:2023年7月17日 23時