季節は移り変わる ページ39
翌日から私は、糸師くんとあまり話さなくなった
話さなくなったというよりか、私があまり話さないように避けるようになった⸺と言ったほうがあてはまる
⸺おい
⸺ごめんね、ちょっと急いでて…
⸺…お前
⸺先生っ、聞きたいことがっ
糸師くんに話しかけられるたび、自分が舞い上がるのがわかる
けれどそれを押さえつけて、避け続ける
しまいには、糸師くんとの唯一のつながりでもある隣通しの席でさえ、
私は自分から断ち切った
視力が悪いからという理由で、前の方の席にしてもらった
糸師くんと出会った頃の、桜で色づいていた綺麗な景色も
気づけば今では、ただの面白みのない緑で窓の外はいっぱいになっていた
糸師くんとかかわらない生活が、こんなにもつまらないものだと、
色のない世界だと改めて気付かされた気がした
ただ、糸師くんと関わらなくなった代わりに、サッカー部の先輩たちとはかなり仲良くなった
糸師くんとの関係を知っている先輩たちだからこそ、過ごしやすかったし、案外自分もこれならなんとかやっていけると思った
「A、大丈夫か?」
騒がしいグラウンドから少し離れたところで隣にやってきた世一先輩
サッカーのことなんて全く知らない私
けれど友達のいない私にとって、サッカー部の練習を見ることは少し至福のひとときになっていた
こうして先輩たちと話せるのもあるし、練習している最中は陰ながら糸師くんのことも目で追える
話さないんだから、こんな時ぐらい見ても罪ではないだろう
『お疲れ様です、世一先輩。いつも気遣ってもらってすみません』
世一先輩は、糸師くんとのことも一番わかってるだろうし、しっかりしているからいつもこうして寄り添ってくれる
けれどまた、遥か遠くの糸師くんを自然に目を追う
それを見つめる世一先輩が、心苦しそうな顔をするのを私は全く気づいていなかった
私は糸師くんしか見ていないのだから…
「俺なら………Aのことしっかり守ってやれるよ」
ポツリと
そうつぶやいた世一先輩の言葉
その言葉に脈打つ心臓
でも…確かに聞こえていたのに私は
それを聞こえないふりをした
『世一先輩…??』
「なんてな!!なんでもねーよ!元気だせよな!
なんて、もう余計なお世話になりそうだな!」
世一先輩…。
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作者名:あれん | 作成日時:2023年7月17日 23時