秘めごと【歌仙兼定】 (ページ10)

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あの日からもう数ヶ月経っている。
私と歌仙は変わらず淡々と日々を過ごしていた。

何も変わらない。
私の気持ちも、そして彼の気持ちも。

しかし物語というのは
始まってしまえば、終わりは必ずくるのだ。

私は大事な事を忘れていた。
この物語の“始まり”というものを

ある蒸し暑い真夏日に
私は今日もまた歌仙に連れられて、辺りを散歩していた。

ジリジリと日照る中、汗が背中を伝う。

歌仙は汗をかくのなんて嫌いだろうに、何故こんな日に外へ、と思いちらりと隣を盗み見ると
彼は汗をかくどころか、まるで熱を感じていないかのように涼しげだった。

足を止め、景色を楽しむ彼に
ずっと、ずっと気になっていた事を尋ねてみた。
私なんかをどうして、と。

生暖かい風が服の隙間を縫っていく
茹りそうな程の熱気が体を包んだ。

歌仙はその涼やかな瞳を一度、ゆくっりと閉じた後
何かを思い出すかのように、ふっと遠くを見た。

「………僕は初陣の後、沢山悩んだ。
何のために戦うのか。
僕は、一体何をしたいのか………。

君と話して、その後も考えてみたんだ。
自分の答えを見出す為に

色々見て、思って、己は
この主を守る為に生き、戦うのだと思った。

僕の悲しみも、苦しみも、全て受け止めてくれると言うこの小さくも優しい、そして愚かな僕の、“僕だけの主”を。」

私は優しくなんかない。
歌仙は勘違いをしている。

私が言ったあれは、優しさなんて綺麗なものじゃない。

なのに、そんな私を優しいと言い微笑む彼に苛立ちを覚えた。

「私の言ったアレは私の欲の塊なのっ！
私の理想像なのっ！
自分の欲をッ、優しくなりたいって欲求をッ！それを満たす為に、歌仙を使う酷い奴なの私はっ……！」

未だ嘗て、これ程感情的になる事は一度も無かった。

胸が締め付けられるように苦しくて痛む。

強い日差しが皮膚をじりじりと焼き、
噎せ返りそうな程の熱気が、
ジジージーと、胸を騒ぎ立てる様な蝉の音が、
私から余裕を奪っていた。