169 ページ35
「丁度玄関におるし、おかえりのやり直し?」
こっちむいて、と彼の手が肩に掛かる。
「おかえり」
「ただいま」
まわされた腕とくっついた彼の身体の体温を感じて背中に腕をまわす。
「、、、珍しい」
滅多に玄関で抱き締め返さない私に驚いた声を上げた彼の手のひらが優しく頭を撫でる。
(どうなるかと思った...)
天月さんの魔法陣を見た時が一番不安だった。
もう会えなくなったらどうしようとそればかり考えていたから抱き締められるといつもより余計に安心してしまう。
ひんやりした彼の体温をもっと感じたくて身体をよりくっつけると、どうしたん?と優しい彼の声が耳をくすぐって腕の力を強めた。
「Aちゃん?」
何も話さない私を不思議に思ったのか彼が身体を離して私を見下ろす。
見上げた彼は少し不思議そうな顔をしているけどいつも通りで、お昼を思い出して不安だった気持ちが溶け出してきた。
「ほんまにどないしたん?」
気分悪い?と心配する彼の顔を見つめながら緩く下唇を噛む。
(泣きそう...)
我慢していたのに、薄く溜まっていった涙が瞬きをした瞬間頬を伝ってしまった。
「ぇええ!?どうしたん、何か嫌やった?」
ごめん?と零れた涙を拭う彼を見て返事をしたいのに口を開けばもっと泣いてしまいそうで唇を噛むのをやめられない。
(何も無くて、ほんとに良かった...)
リビングに行こうと手を引く彼の背中を見て顔を見られなくなったことで涙がまた溢れてくる。
「どうしたんどうしたん、悲しい?なんか辛い?」
振り返って私が更に泣いているのを見て驚く彼に申し訳なさを感じるけど、こんなに泣いてしまったしもういいかという気持ちで堪えることをやめた。
「あぁ、どうしよ」
慌ててティッシュを取って拭ってくれるけど、到底追いつかなさそうな涙に彼は眉を下げている。
ソファに座る彼の膝の上に向かい合うように座ると、驚きながらも優しく抱き締めてくれた。
「Aちゃーん?ほんまにどうしたん、なんでそんな泣いてん?」
静かな声が耳元で囁かれて、とりあえず応えようと小さく首を振る。
「辛い?悲しい?」
違う、と首を振るとそうかぁ...と黙って大きな手が優しく背中を撫で始める。
肩に顔を埋めて落ち着こうと息をするけど嗚咽のようになってしまって止まらない。
それでも彼はゆっくりで大丈夫やでと背中を撫で続けてくれた。
820人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あーりん(プロフ) - lonleyさん» コメントありがとうございます!やっと書き始める事ができたのでのんびりにはなると思いますが読んで頂けると嬉しいです★ (2019年7月11日 23時) (レス) id: 509e058229 (このIDを非表示/違反報告)
あーりん(プロフ) - ふらわぁさん» 気味悪さを表現したかったので、最高の褒め言葉ですwありがとうございます!笑 (2019年7月11日 23時) (レス) id: 509e058229 (このIDを非表示/違反報告)
lonley - すごくおもしろかったです! 坂田くんver.気になって仕方ありません!! これからも頑張ってください! 応援してます! (2019年7月10日 21時) (レス) id: 39388112b7 (このIDを非表示/違反報告)
ふらわぁ(プロフ) - おかえりってところでゾクってしましたw (2019年7月10日 20時) (レス) id: c190ba3ed4 (このIDを非表示/違反報告)
あーりん(プロフ) - もえかさん» コメントありがとうございます!どちらも読んで頂けて嬉しいです( ;__; )今後もよろしくお願いします! (2019年7月7日 16時) (レス) id: 509e058229 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:あーりん | 作成日時:2019年6月19日 6時