気づくこと。9 ページ9
「私、このままかぶき町にいたら、暴走しそうで怖くて、好きだから、愛してるから江戸をを離れたんです」
缶ビール片手に語り合う。この感じはお登勢さんにすごく似てるなぁ。「ふーん、じゃ、その涙はなんだい?なんで泣く必要が?」
「その彼に...会ったんです。電車乗る前に...久しぶりに会ったら、すごくやつれてて、お昼からお酒煽るほど落ちぶれてて...っ、それ見たら勘違いするじゃないですか...」
話してるとまた涙が出てくる。「うんうん」と、優しく相槌を打ちながら聞いてくれた。「姉御も話して下さいよ」と、私が泣きながら言う。
「...私はねぇ、まぁ、倦怠期が乗り越えられなくてね。私はいつまでもあんたをここに泊める気は無いよ。」
「無くしてから気づくことがたくさんあってね、多分アイツはもう世帯持ってると思うがね。全て無くして後悔する前に江戸に戻りな。私はそれで随分苦しめられた。江戸でも、尾張でも。ここに来て十年経つがね、今も思い出して苦しくなるんだ」
大家さんは、苦しそうな笑顔を見せると、涙を流した。「今どこにいるんだろう、なに考えてるんだろう、何してるんだろうって、ふとしたときに思い出すんだ。苦しいよ。お前にこんな思いはしてもらいたくないの」と、涙を流して声を出して泣いた。
「他の男とも付き合ったり、体を重ねたりしたけどさ、頭にあるのはいっつも好きな奴の笑顔で...そんなことするのは、絶対やめな。自分が惨めになるだけさ。大事なものは、何で無くしたときに気づくんだろうね...」
「...無くしたときに...気づくこと...」
そんなの、今痛いほど分かってる。何がいけなかったんだろう、私、どうすれば良かったのかな。わかんないよ、誰か教えてよ...
「せいぜい二年は泊めてやる。それまでに切り離すか戻るかしなさいよ」
私は大家さんの部屋を出て、お酒が回る体で自分の部屋に戻った。ベッドに沈む。窓からは月が輝いていた。
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『銀時、やっぱお月見は良いね』
『あァ。毎年やろうな。むしろ月なんか見なくても、その、...お前がいるだけで十分だけどな......っなんだよ!』
『あら、珍しい。そんなこと言うなんて』
『う、うるせー!銀さん頑張って口に出したんだよ!?少しは照れても良くない?』
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ふとしたときに思い出す。
枕には涙のシミが出来ていた。
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作者名:す | 作成日時:2021年4月9日 16時