episode3 ページ4
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壮馬「本日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。取材をお受けくださってありがとうございます」
斉藤壮馬さんは、思っていたよりもはるかに物腰がやわらかく、対応が丁寧で、感じの良い人だった。
壮馬「ぼく、下の名前で呼ばれることが多くて、よかったらぜひ」
「あ、はい。では、壮馬さんと呼ばせていただきますね」
壮馬「ぼくは、Aさんとお呼びしてもいいですか」
「はい、もちろんです」
私がさきほど渡した名刺を見て、壮馬さんに名前を呼ばれた。
それだけのことで、私の心臓はトクンと音を立て、心の奥にしまっていたものにチクリと針をさされたように胸のどこかが痛みを覚える。
壮馬さんの香水がかおったとき、私は確信した。
――あのときの、しおりの人だ。
写真撮影も取材も、順調に進んでいる。
一般的な本の話題から、壮馬さん個人の読書習慣のことへと話は移った。
「ブックカバーやしおりなど、なにかこだわりはありますか?」
壮馬「いや、ないです。しおりは使いません。そこら辺にある適当な紙……、領収書とか? ふふ、そういうものをぐしゃっとはさんで」
やわらかな胸の痛みは、残酷に傷つけられたような、悲しみをともなう苦痛へと変わる。
このときちょうど、「いちど休憩をはさみまーす」とスタッフさんの声が聞こえ、私はほっとした。
コーヒーを渡そうと、休憩中の壮馬さんを探した。
彼は、おだやかな春の陽射しの中、窓辺のソファーに腰かけ、本を読んでいる。
集中しているようで、私が近づいても気づいていない様子だ。
さらに近くへ行くと、さすがに気配を感じたようで、慌てて本にしおりをはさんだ。
――え、それは……。
緑色のしおり。この世にひとつしかない。だって私の手作りだから。色違いのピンク色のものは、今でも私が使っている。
壮馬「Aさんがくれたしおり、ずっと大切に使ってます」
そう言ってほほえむ壮馬さんと、ただ立ち尽くしている私は、一気に学生時代のあの日に戻ったようだった。
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月時雨(つきしぐれ)(プロフ) - 詩奈さん» コメントありがとうございます。読んでいただけた上に、コメントまでくださって、本当に嬉しいです。はらはらを乗り越えて、良い読後感になっていたとしたら幸いです。 (2021年7月28日 8時) (レス) id: e3ea42d451 (このIDを非表示/違反報告)
詩奈(プロフ) - お疲れ様でした!読んでてはらはらすることもありましたが、2人のトゥルーエンドで良かったです! (2021年7月27日 22時) (レス) id: 67cdd7411b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月時雨(つきしぐれ) | 作成日時:2021年7月17日 19時