【鬼滅】善逸と愛し愛される話

△　夢、希望、ひかり ページ27

しのぶさんはカナエさんのことを最愛の家族、と言っていた。その相手を目の前で失ったあとの毎日を地獄と称していた。しのぶさんは生きながら地獄を見た。だからその言葉は、あまりにも重かった。



「私はほんとうにいろんな鬼狩りを見てきました。看てきました。鬼狩りの恋人をなくして、翌朝に川に沈んでいた子も珍しくはありませんでした。そういうことです」

「……」

「恋をするAちゃんはすてき。甘露寺さんもキラキラして見える。私には誰かを好きになる余裕がない。怒りと悲しみだけで突き動かされている。憎しみだけで鬼を狩る」

「……」

「かわいい後輩も、頼れる先輩も、同期も、友達も……みんなこぞって死んでいって、ただ私だけが、のうのうと生き残る」



　しのぶさんは湯のみを見つめているけど、その目に映ってるものは、たぶん、違う。



「……しのぶさん、わたし、それでもね。わかっててもね、」




　しのぶさんにとってカナヲちゃんやアオイちゃんたちがそうであるように、いつか失うとわかってても、誰かをとくべつに想ってたい。



　わたしはしのぶさんがヒラヒラとどこかに行ってしまわないように抱き寄せた。彼女は抵抗せずに、わたしの肩に頭をのせてきた。重みがない。骸骨みたい。もう藤の花を食んでるんだ。
死ねばもろとも、奈落まで引きずっていく。
その執念が、覚悟が、こんなに小さくて細い身体のなかにギッシリと詰まっている。わたしは今とんでもないものを抱いている気がした。



　しのぶさんの閉じたまぶたが、贅沢なまつげが、静かにふるえていた。ああ。このひとは今わたしに救われているんだと思った。たった一時。一時だけ羽を休めて。



　Aちゃん、善逸くん。どうか鬼舞辻無惨を倒すまで、ふたりで生き残って。そして結ばれて、ありきたりな、凡庸なしあわせを手にいれて。私が助けられなかった鬼狩りの恋人たちの代わりに。それを一目でも見れれば、私は救われる。あなたたちは、私の、夢、希望、ひかり。

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