いつかの白昼夢 ページ1
ぼやけた視界がゆっくりとクリアになる。そこは夢の場所、醍醐の屋敷だった。
「おどろいた、本当に来た」
桜の雨が降っている。やさしいピンク色が舞い上がる。わたしは思わずキュッと目をつむる。多宝丸は庭の地面に寝たまま、顔だけわたしの方に向けてきた。顔はまっさらに綺麗で、ケガはどこにも見当たらない。百鬼丸の目が宿ったその傷もない。見ると、わたしの傷も消えていた。そうか。ここは現実世界じゃないからか。
じゃあ現実の多宝丸は、今頃きっと……そこまで
考えたところで首を横に振って、歩み寄る。
「……本当に来た、って？」
「Aに会いたいと思った」
そのどストレートな物言いは聞いているこっちが照れてしまう。わたしは多宝丸を抱き起こして肩で支えた。脱力した人間は重い。知らなかったよ、こんなに幼い顔をしてたんだ。
「……わたしで、よかったの？最後に会うの」
「お前がいいからそう願った……母上には先ほど現実で会えたしな……それより、女の泣き顔は、もっと綺麗なものだと思ってたんだが」
「……うるさいよ」
「おい、顔に鼻水たらすなよ」
「たらさねーよ」
「口元けわしすぎだろ」
「誰のせいだよ！」
まったくもう。精神的に満身創痍ツッコミさせないでよ。出てきた涙もひっこんでくる。いつからこんなに可愛げなくなったのか。
「嬉しい」
「……はい？」
「お前が、俺のために泣いてくれてるのが」
「頼みがある」多宝丸はわたしの手を取って、自分の頭にそっと乗せた。「そのまま、撫でて、くれないか」そう恥ずかしそうに目をさまよわせながら頼んでくる。お安い御用さ。クシャクシャに撫でてやる。百鬼丸と違う髪質で、硬めで、癖のある、多宝丸の髪。
圧し殺されてくぐもった声が聞こえてくる。そんな泣き方しか、できなくなったんだろう。
醍醐が領主の跡継ぎ。無関心な母。父から背負わされる重荷。誰にもさとられないように、閉めきった部屋で、くちびるを噛んで、顔を覆って。わたしは余計なことは全部のみこんで、ただゆっくりと、頭を撫で続けた。
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翡翠(プロフ) - 展開が神‼です！どろろにはまったのホント最近なんですけど、マジで最高です！ (2022年3月23日 16時) (
レス) @page17 id: d32df67ed7 (このIDを非表示/違反報告)
有希(プロフ) - 朔弥139さん» はじめまして！感想うれしいです。アニメ完結から2年が経った作品でもあなた様のコメントをいただけたことで、いつかやろうと思っていた加筆修正に着手することができました。本当にありがとうございました。 (2021年7月3日 9時) (レス) id: 67c2a31e1e (このIDを非表示/違反報告)
朔弥139(プロフ) - 初めまして、何度読み直しても好きな作品です。本当にありがとうございます (2021年6月12日 11時) (レス) id: 327451071d (このIDを非表示/違反報告)
有希(プロフ) - あやかさん» 全て！？ありがとうございます……！ひさしぶりに自分で読み返すと拙く読みづらい文だと感じましたが、そんな風に言っていただけて……ありがたいです。またどこかでお会いできたらと思います！！ (2020年3月17日 11時) (レス) id: c151be2953 (このIDを非表示/違反報告)
あやか(プロフ) - 全て読ませていただきました。ほんとに素敵な物語をありがとうございます。『どろろ』次回作をお待ちしています。よろしくお願いします。 (2020年3月9日 21時) (レス) id: e756cf6e94 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：有希
| 作成日時：2019年6月28日 20時
