【どろろ】推しの相棒になった件について【百鬼丸】

どうしてこうなっちゃうのかね ページ37

「好きな男がいるんだろう？だからと言ってそう簡単に諦めないがな。心変わりは歓迎するぞ」

「……その予定はないかな」



　そこまで話がついたところで物音がどんどん近づいてきた。松明を持った家来がバケモノでも見たような声を上げる。「若の部屋の前に！」と絶叫して今にも倒れそうだ。何もしないって。さすがに多勢に無勢で、塀をとびこえて抜け出すことにした。百鬼丸のことだから、ほうっておいても大丈夫だろう。あの相棒は無傷で帰ってくるだけの力がある。押しつけられた短冊をどうしたものかと考えあぐねているうちに、すっかり日がのぼってしまった。どろろ怒るだろうなぁ。今から怖くなってきた。早く帰ってきてくれ、たのむ。わたしの祈りが通じたのか、百鬼丸が塀を超えてくるのが見えた。駆け寄って「どうだった？」って聞いてみる。



「……」

「会えた？その……お母さんと」

「……」

「何も……話したくない？」

「……」



　そうかい。動こうとしない百鬼丸の手を引いて、竹やぶの中を割って進んでいく。早く戻ろう。どろろのもとへ。結局わたしは百鬼丸を傷つけることしかできなかったのかな。そう考えるとすごく虚しくなった。



「……ごめん、なさい」

「え？」

「ごめん、なさい、ごめんなさい、坊や……言われた」

「……そっか」

「あと……生きてて、くれて、ありがとう、言われた」

「……そっ、か」



　生きていてくれてありがとう。その言葉の意味は百鬼丸にちゃんと伝わっているのかな。だったら嬉しい。いたずらに彼を傷つけただけじゃなかったのなら、このばかげた侵入に意味が見いだせる。百鬼丸はもう一言も喋ろうとはしなかった。くいくいと袖をひっぱられて、なあにとふりむくと、自身のくちびるを指さした。百鬼丸はキスしてくれない。こうして、わたしからさせるのだ。とんだ小悪魔だよ。彼の首の後ろに手を回して背伸びする。つやつやの黒髪をつかんで、くちびるを重ねる。やわらかくておいしい。

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