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ヘタクソ ページ5

子供っぽく千賀くんと口を利かない不機嫌な高嗣とは裏腹に、私は、にやける口元で残りのパイシチューを食べて、二杯目のカシスオレンジを注文しに席を立った。


「何か他に頼む?」

「ポテト追加で。」

「ホント、好きだねぇ…。」


拓海の追加注文に、若干あきれながら、空になったグラスを持って、カウンターに向かった。


店内には、この時期になると必ず耳にするクリスマスソングが大人っぽいアレンジで流れていた。

カウンターに空になったグラスを置いて、マスターにおかわりを頼む。

流れるメロディーを鼻歌で歌いながら、注がれるオレンジジュースを見ていた。


夕焼けみたい。


そんなことを思いながら、同時に、あの日、オレンジの夕日に照らされた高嗣のシルエットと掠れたような特徴的な声を思い出していた。




「ヘタクソ。」




そう、こんな声。……ヘタクソ?




「は!?」




声のした方に顔を向けると、カウンターに寄りかかって、嫌みなほど長い脚を持て余した高嗣がいた。


「鼻歌に、ヘタクソとかないから!」


つい言い返してしまうけど、ムキになる私をみて、満足げに笑う高嗣を見るのは嫌いじゃない。


「はいはい。マスター、おかわりお願いしまーす。」


私の抗議を適当に流して、おかわりを注文する姿に、カウンターの向こうでマスターが笑った。


「オマエ……、Aさぁ…。」


わざとらしくふくれっ面で睨むと、こっちを見ないでそこまで言った高嗣が、ため息をついて足元に視線を落として黙り込んだ。


「おまたせ。」


マスターが私たちの会話を邪魔しないよう気遣いながら、カウンターに、通常よりも多めのポテトと、カシスオレンジのグラスを二つ並べた。


「ありがとうございます。」


黙ったままの高嗣を無視して、ポテトのお皿に手を伸ばすと、それより早く、高嗣の指が、ポテトの山から揚げたての一本をつまんでいった。


「ちょっとぉ!」

「あつっ、うまっ!」


ブラックペッパーのついた指先。
もぐもぐするアヒル口。


子供かっ!


そう言おうとしたのに、その先に続くはずだった言葉は簡単に封じられてしまった。


細くて長い指先が私の頬をつまんで、それから、照れたような、困ったような顔で言った。




「あんま、隙、見せんなよ。バカ。」




きっと、私の頬には、ブラックペッパーがついてて、それから、さっきよりずっとにやけてた。

決定事項→←不機嫌の理由



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植尾あい(プロフ) - あいこさん» 初めまして。何度も読み返していただいているなんて、とてもうれしいです。ありがとうございます。まだまだ先が長いお話ですが、のんびりマイペースで書き続けますので、宜しくお願い致します。 (2020年12月23日 11時) (レス) id: 2932ce7796 (このIDを非表示/違反報告)
あいこ(プロフ) - 初めまして。今まで何度も読み返してるほどファンです!これからも楽しみにしています。素敵なお話をありがとうございます(^^) (2020年12月16日 17時) (レス) id: 7af89e0405 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ソフィアさん» ありがとうございます。読みやすく、書きやすく、修正したら、必ず元に戻しますので、待っていてください!ソフィアさんのコメント、いつも励みになっています!これからもよろしくお願いします(^^) (2020年8月17日 21時) (レス) id: 3c990321a7 (このIDを非表示/違反報告)
ソフィア(プロフ) - 承知です。待ちまーす。 (2020年8月17日 18時) (レス) id: 06f6b1f19d (このIDを非表示/違反報告)
ソフィア(プロフ) - いいっ、スッゴクいい。何てこと無い、ヤキモチやかれる場面だけど、彼女の嬉しい気持ちがすごく良くわかります! (2019年11月9日 7時) (レス) id: cfeb0a9590 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:植尾あい | 作成日時:2019年10月22日 22時

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