パイシチュー ページ3
「パイシチューお待たせしました。」
言い返す言葉も、誤魔化す言い訳も思いつかない私に、マスターの天の声がパイシチューを運んできてくれた。
ふわりと香るバターの香ばしさとシチューの匂い。
「待ってました！」
雑然とするテーブルの上を整理してスペースを確保する。
並べて置かれた二つのココット。
「千賀くん、どっちにする？」
木のスプーンを渡しながら聞くと、隣から佐知が「誤魔化してるー」って笑ったけど、無視した。
「じゃぁ……ビーフ！」
少し考えてから、茶色のナフキンが敷かれたココットを引いた。
「オッケー！」
黄色のナフキンが敷かれたココットを自分の前に引き寄せて、千賀くんと目を合わせる。
「ﾌﾌｯ せーのっ！」
声を揃えて、スプーンでパイを崩すと、温かな湯気が立ち上ってシチューの匂いが開放される。
「子供かっ！」
「これが、パイシチューの醍醐味でしょ！」
拓海のツッコミに言い返すと、千賀くんも頷いて笑った。
沈めたパイとシチューを口当たりのいい木のスプーンですくい上げて、フーフーと冷ましていると、目の前で千賀くんが同じ様にする。
かわいい。
千賀くんは、年下の可愛さが魅力的だな、なんて、うっかりときめいてしまう。
「「いただきまーす。」」
二人で同時にスプーンを口に運ぶ。
熱々のシチューと香ばしいパイ。
冬の香り。
「んーーー、美味しい！」
「うんまいっ！」
もぐもぐ頬を動かしながら、二人で顔を見合わせる。
「Pinocchioのパイシチュー食べると冬が来たって気がするんだよねー。」
「そんなこと言われたら、これから毎年食べに来たくなるじゃん！」
「お店が無くならなければ、毎年くればいいじゃん。」
マスターに代わって、常連客を獲得する営業トークで、千賀くんの冬の訪れをPinocchioに紐付ける。
こうやって、毎年、みんなで季節の変わり目を迎えながら、ゆっくり歳を重ねていけたらいい。
いつまでも、どこまでも、一緒の時間紡いでいけたらいい。
それは、揺るがない未来。
私たちのこの先は、いつまでも、続いていくと信じて。
「チキンも食べる？」
「食べたいっ！」
子犬みたいにキラキラと目を輝かせる千賀くんのアイドルスマイルに目眩を感じながら、ごろっと大きめのチキンとクリームをスプーンにすくう。
「はい。あーーーん。」
口元にスプーンを近づけると、一瞬、驚いた様な顔をして、それから、ゆっくりとスプーンに近づいた。
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植尾あい(プロフ) - あいこさん» 初めまして。何度も読み返していただいているなんて、とてもうれしいです。ありがとうございます。まだまだ先が長いお話ですが、のんびりマイペースで書き続けますので、宜しくお願い致します。 (2020年12月23日 11時) (
レス) id: 2932ce7796 (このIDを非表示/違反報告)
あいこ(プロフ) - 初めまして。今まで何度も読み返してるほどファンです！これからも楽しみにしています。素敵なお話をありがとうございます(^^) (2020年12月16日 17時) (レス) id: 7af89e0405 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ソフィアさん» ありがとうございます。読みやすく、書きやすく、修正したら、必ず元に戻しますので、待っていてください！ソフィアさんのコメント、いつも励みになっています！これからもよろしくお願いします(^^) (2020年8月17日 21時) (レス) id: 3c990321a7 (このIDを非表示/違反報告)
ソフィア(プロフ) - 承知です。待ちまーす。 (2020年8月17日 18時) (レス) id: 06f6b1f19d (このIDを非表示/違反報告)
ソフィア(プロフ) - いいっ、スッゴクいい。何てこと無い、ヤキモチやかれる場面だけど、彼女の嬉しい気持ちがすごく良くわかります！ (2019年11月9日 7時) (レス) id: cfeb0a9590 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：植尾あい
| 作成日時：2019年10月22日 22時
