そういうこと ページ9
土曜の夜の電車は、サラリーマンの割合少なめで、休日を楽しんだ帰りの人たちで、いつもよりカラフル。
駅に着くたびに、増えたり減ったりする人たちも、私たちも、お互いに、ただ、通り過ぎていく景色の一つ。
電車内の少し篭ったような空気と、独特の匂いの中で、すぐ隣にいる高嗣の匂いだけが、私の知っているものだった。
最寄り駅の一つ前の駅。
乗り込む人、降りていく人の波に乗って、ドア付近まで移動した時だった。
「次の駅、だよな。」
「うん。」
ホームから聞こえる出発を知らせるメロディーに紛れて、高嗣が小声で言った。
閉まるドアに、ドア付近の人がドアから離れるようにして、その圧によろける私を高嗣の手がさりげなく支えた。
ずるいな……。
嬉しいはずなのに、そんな高嗣の行動に、私ばかりが好きになってしまうのが悔しかった。
「A、電車降りたら、オレのこと見ないで、そのまま、自転車置き場まで行けよ。」
「え?」
好きにさせておいて、急に方向転換する高嗣の言葉に、その意図がわからず顔を上げようとすると、小声で「見んなよ。」って、言われて、再び、視線を落とした。
窓の外には、線路沿いの自転車置き場が見えてきて、駅が近いことに気づく。
「いいから。」
理由も聞けず、それだけ言われて、高嗣は、何も言わなくなった。
どういうこと?
ゆっくりとスピードを落とす電車。揺れる車内。
持っていた荷物を持ちなおそうとした私の手に、一瞬、高嗣の手が重なって、ギュッと握った。
だから、そういう事するから、もっと好きになるんだよ……。
ホームについた電車のドアが開くと、人の流れに押し出されるように、先に降りた高嗣の背中に続くようにホームへ降りた。
一気に体を包み込む冬の空気。
流れるように改札へ向かう人の流れ。
私を一度も振り返ることなく離れていく高嗣の背中。
「絶対に、ニカだったったって!」
そんな中で聞こえた、聞き覚えのある『ニカ』。
声のした方をみると、女の子二人がはしゃぎながら、高嗣の背中を追いかけるように駆けていった。
そうか、そういうことか。
高嗣の言動の意味が、私の中でつながっていった。
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植尾あい(プロフ) - あいこさん» 初めまして。何度も読み返していただいているなんて、とてもうれしいです。ありがとうございます。まだまだ先が長いお話ですが、のんびりマイペースで書き続けますので、宜しくお願い致します。 (2020年12月23日 11時) (レス) id: 2932ce7796 (このIDを非表示/違反報告)
あいこ(プロフ) - 初めまして。今まで何度も読み返してるほどファンです!これからも楽しみにしています。素敵なお話をありがとうございます(^^) (2020年12月16日 17時) (レス) id: 7af89e0405 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ソフィアさん» ありがとうございます。読みやすく、書きやすく、修正したら、必ず元に戻しますので、待っていてください!ソフィアさんのコメント、いつも励みになっています!これからもよろしくお願いします(^^) (2020年8月17日 21時) (レス) id: 3c990321a7 (このIDを非表示/違反報告)
ソフィア(プロフ) - 承知です。待ちまーす。 (2020年8月17日 18時) (レス) id: 06f6b1f19d (このIDを非表示/違反報告)
ソフィア(プロフ) - いいっ、スッゴクいい。何てこと無い、ヤキモチやかれる場面だけど、彼女の嬉しい気持ちがすごく良くわかります! (2019年11月9日 7時) (レス) id: cfeb0a9590 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:植尾あい | 作成日時:2019年10月22日 22時