この嘘の行方

出会い ページ9

「何やってんだよ、お前ら。」


念願の採用通知に、喜びを分かち合う私たちに、聞き慣れた声が呆れたように言った。

二人同時に振り向けば、Pinocchioの前に見慣れたシルエットが面倒くさそうにこっちを見ていた。


「拓海っ！！！決まった！メール来た！就職！！！」

「は？落ち着け。何言ってるわかんねぇわ。ﾊﾊﾊｯ」

「Aの就職が決まったの！やっと！」


佐知の通訳が一言多くて、多少失礼なのは、愛情の裏返し。


「マジかーーー！やっと！ﾊﾊﾊｯ」


拓海の返事が同じだけ失礼なのも、不器用な愛情表現。

半泣きで笑う私の頭をガシガシ撫でまくって、笑うから、ぐしゃぐしゃになった髪で「やっとだ！」って、笑った。


「よし！今日は、Aのお祝いだな！」


拓海の言葉に、佐知がハッとなる。


「ちょっ……」


拓海のＴシャツの裾をピンクのグラデーションのネイルで引っ掛けて、今更ながら、取り繕うみたいに、長いまつげを瞬かせる。


「あ。悪い悪い。忘れたわけじゃないって。ﾊﾊｯ」


拓海が向けた視線の先。




私たちのバカ騒ぎを数歩離れて、居心地悪そうに見てる影。




傾いた真夏の日差しに、浮かび上がる長い手足。




オレンジ色の夕日が映る、生意気そうな瞳。




片足に体重をかけるようにして、ダルそうに斜めに立つ。



大人ぶった長めの黒髪は、少しだけチャラくて。



でも、アンバランスなアヒル口から見える整わない八重歯が子供っぽい。



その光景は、私の心に焼き付くみたいに
映って、瞬きすら忘れた。






「ニカ。」






拓海に、そう呼ばれたカレ。






それが、私と高嗣の出会い。




それが、




長い長い嘘の始まりだったのかもしれない……。



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