帰り道 ページ43
人通りの少なくなった通りを走り出す自転車は、少しよろけて、それから、ゆっくりとスピードを上げた。
頬を撫でるぬるい風は、ニカの匂い。
ペダルを踏むリズムとともに、心地よく揺れ、目を閉じれば、トクントクンと胸が鳴る。
「どっち?」
駅前まで戻って、大きくはないロータリーに差し掛かった時に、振り向かないニカが短く言った。
「あっち。」
駅から真っ直ぐに伸びる並木道を指さして、同じように短く答えた。
「どれくらい?」
「公園までまっすぐ。」
「何分?」
「10分。」
「は?遠いわっ!」
私の指示に、つっこんで、笑う。
背中越しに伝わる、ニカの声。
ひとりで帰る時は、果てしなく遠く感じる距離は、特別な会話が無くても、あっという間に過ぎていく。
公園の入口が見えて来る頃、もう、ほとんど人通りがなくなっていた。
通り過ぎたコンビニの明かりが、一瞬、私たちを照らして、ガラスに映った私たちは、どこか現実味がなかった。
「あそこの公園の角、曲がって、すぐのマンション。」
「……ん。」
短いニカの返事に、近づく真夏の夢の終わり。
ゆっくりとスピードを落としながら傾く自転車。
ギュッと抱き着くように、腕に力を込めると、切なさが胸に積もるのがわかった。
「これ?」
ブレーキが音を立てて、オレンジ色のライトで照らされた小さなマンションの入口で自転車を止めたニカが、見上げる様に顔を上げた。
「……うん。」
両足を地面に付けて、名残惜しく腕を解く。
離れていく体温。
ニカの匂い。
息が上がった背中。
ゆっくりと荷台から降りると、ニカも同じように自転車を降りた。
「……ありがと。」
「……ん。」
短いやりとりで自転車を受け取ると、ハンドルからニカの熱が伝わった。
ポケットに親指を引っ掛けて、数歩離れたニカは、何も言わずに視線を逸らした。
「あ、あのっ。ちょっと、待って。」
どうしたらいいかわからないけど、このまま、『またね』って言う気にもなれなくて、とりあえず、引き止める言葉を置いて、自転車置き場へ向かった。
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植尾あい(プロフ) - ふじのんさん» ウフフ 友達2人についても気になっちゃうあたり、マニアックですよ!(笑)でも、その期待を裏切らずに、友達も含めて、この先の展開を楽しみにしていて下さい!二階堂くんの不器用な優しさとか愛情表現、キュンとしてもらえたら嬉しいです。 (2018年2月10日 22時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - にかはるかさん» 不器用な2人の想いがもどかしくて、切なくて、書いてるはずの私もソワソワしちゃいますが、2人の幸せを願いながら、続きを書こうと思います!文章が素敵だなんて、褒めてもらえて嬉しいです!ありがとうございます! (2018年2月10日 22時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
ふじのん(プロフ) - あいさん、こちらの小説では恐らく初めましてです!雑誌を広げて文字を書いたニカちゃん。この時点で「アレしかなおよな?」と予想はしていましたが、とどめの「またなっ○○」がズッキューンときました!2人はもちろんですが、友達2人もどうなるのか気になります(^^) (2018年1月6日 22時) (レス) id: fe899e2f87 (このIDを非表示/違反報告)
にかはるか(プロフ) - 植尾あいさん» ニカちゃんの声で心に響いています!自分の気持ちに気づいた主人公ちゃんと、不器用なニカちゃんがどうなるのか、とても楽しみです!文章もとっても素敵です! (2018年1月5日 23時) (レス) id: 3dfef49e61 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - にかはるかさん» 二階堂くんの声で脳内再生されてますか?!よかったー。若い頃の二階堂くんをリアルタイムで知らないので、完全な妄想で仕上がっているので少々心配だったのですが、よかったー!のんびり更新ですが楽しみにお待ちくださいね! (2018年1月5日 18時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:植尾あい | 作成日時:2017年7月18日 0時