この嘘の行方

はやとちり ページ21

地下から地上へ上がる階段は、私を現実世界に引き戻すトンネルみたいに見える。


一段一段、ほろ酔いの足取りで上がる階段。


見上げる現実への出口は、夜の光に縁取られ、時々、ゲームセンターの賑やかな音が聞こえてくる。


「……あ、実家に、内定報告しなきゃ。」


拓海と佐知、そして、ニカに、内定を祝ってもらったことで、忘れかけていた両親への報告。


「A、一人暮らしなの？」


一歩前を行くニカが私の言葉に反応して、軽く振り向く。


「そうだよ。」

「へーーーー。」



これは……





「……やだよ。」





先にお断りしておこう。

さすがに初対面の男子は、危険だ。





「何がだよ。」


最後の一段を上がって、ニカが振り返る。

後をついて階段を上がりきれば、湿度の高い夏の空気が冷房で冷えた体を一気に包み込んだ。




「……泊めないよ？」




頼まれる前に断るのは、少し気が引けるけど、このまま流れでついてこられても困る。


まだ、終電まで時間もあるし、帰れるでしょ？




「……は？！
泊まらねぇし、泊まったとしても、Aなんか襲ったりしねぇし！」




私の先回りした思考に、一瞬、空気がフリーズして、それから、ニカがムキになって言い返す。


「そこまで不自由してねぇからっ！」

「え？！」


……はやとちり。


しかも、かなり恥ずかしい方向への早とちりをしたことに気がついて、今すぐ地下に戻りたい気分で俯くと、拓海と佐知が手を叩いて笑い出す。


「オマエさぁ……。」


呆れた声で、また、私のことを『オマエ』って呼んだニカの声に顔を上げると、大きな右手で口元を覆うニカの頬は、一滴もアルコールを摂取していないにもかかわらず、赤く染まっていた。


「……オマエじゃ、ないもん。」


お互い、次の言葉を見つけられず、目も合わせられない。


「残念！A！ニカは、オレがお持ち帰りしますからー。ｱﾊﾊﾊﾊ」


気まずくなる私達の空気を、拓海がさらっていく。


「いや。オレ、そういう気は、ないんで。」


肩に回された拓海の腕をくぐるように抜けながら、ニカがふざけた真顔でそう言って、空気がリセットされていく。




馴染んでいくニカの存在。

溶け込む声。




無理なく、私たちの関係を新たなものにしていく。

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