この嘘の行方

『恋』にならない理由 ページ32

「ちょっと失礼しまーす。」


間に、ファジーネーブルを挟んで、二杯目のカシスオレンジが氷でだいぶ薄まった頃、邪魔そうに投げ出されたニカの脚を跨いで会話を抜け出す。


「どうした？」


拓海のバイト先に現れた奇抜なファッションのおじいちゃんの話に盛り上がってた佐知が、笑い声の隙間から心配そうに顔を出す。


「トイレー。」


子供みたいにふざけて言ってから、その場を離れる。


２歩、３歩……離れるほど、会話が遠くなっていく。


レンガに飾られた仕切り壁の向こうの『rest room』のプレートに向いながら、盗み見るように振り返ると、三人の楽しそうな姿があった。




大好きな場所に、大好きな人たちの笑い声。

それは、大切な時間で、かけがえのない一瞬。




何も変わらない。




私も佐知も、拓海も、ニカも……。




何も変わらない。

どこも違わない。




同じ下らない話で、同じように笑ってる。




佐知から聞いた現実に、私達とニカの間に、見えない線が引かれ、出会って間もない関係がこれ以上進めなくなった気がした。





知りたくなかった？

知らなきゃよかった？





知らなかったら、この気持ちは、『恋』になった？





柔らかい電球のオレンジ色が足元を照らして、苦しくなる胸の奥から息を吐き出す。


触れたドアノブは、ひんやりとして、少しだけ酔いを覚ました。


遠のく店内のBGM。


rest roomの温度は、少しだけ低くて、頬の熱に自分で気づく。




知ってたら、何か変わってた？




心の中で強がる私が、『恋』にならない理由を列挙しようとするのに、言葉にできない何かが邪魔をする。





クソガキだし


生意気だし


年下だし


意地悪だし





それに……それに……





続かない言葉は、自分を追い詰めていく。





「ニカなんて……。」




鏡に映った自分が泣きだしそうな顔で、こっちを見ていた。

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