すべてはキミに恋するため

自問 ページ5

諦めるのは簡単だけど、釈然としない小さな棘が喉の奥に残ったみたいで、呑み込めないカノジョの想いに苦しくなった。


「意味……わかんね。」


一方的に告げられた別れは、オレの想いをおいてけぼりにして、囁かな癒しは、この部屋から消えた。


不器用なりに、大切にしてきたつもりだった。



この想い、届いてなかった？



どれが正解なのか、答えは一つも見つからないまま、ただ、立ち尽くす。


緑色のクマは姿を消して、その鍵は、ただの金属の塊になった。

指先で触れると、まだ、チカの温度が残っている気がして、鍵を握りしめるようにして、玄関に向かった。



まだ、そこにいる？


まだ、好きでいてくれる？



もう、スニーカーの隣にはない、華奢なサンダル。



ヒールの高さを借りても、全然届かない身長が愛しくて、オレの腕を引き寄せる小さな手に、身をかがめてキスをした。



その全部が、過去になる。



まだ、その手を掴むことが出来る？


捕まえることが出来たなら、まだ、元に戻れるの？



サンダルを引っかけるようにして、ドアノブに手をかける。

カノジョが出ていった証に、開けっ放しの鍵が指先に触れた。



便箋に綴られた言葉は、きっと、突然湧いて出たものなんかじゃない。


見ないようにした、気付かないふりをしたカノジョの不安。


きっと、その手を掴んだって、もう、元には戻れない。



それに、



カノジョは、それを望んでる？



チカへの疑問は、自分への問いかけに変化して、なりふり構わず追いかけることすら許されない自分に、自分でブレーキをかけた。




「……わけわかんねぇよ。」




ため息混じりに漏れた言葉と共に、静かに、ドアの鍵をかけた。




もう、元には、戻れない。


もう、元には、戻らない。



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