すべてはキミに恋するため

引き返す理由 ページ36

「なんか、普通に友達の部屋に遊びにきた気分になってたわ。オレ。」


本心からそう言って、笑った。



キミの優しいお節介と、オレのタイミングのいい勘違い。



また、こうやって、笑いあえたらいいな。




「じゃあね。」




今度こそ、ドアを開けて、キミに手を振る。

同じように「じゃあね。」が返ってきて、これが最後なのかもしれないって、気づいた。


ドアの向こうから、まだ、降り続く雨の音が聞こえて、冷たい夜の空気か流れ込む。



一歩、外に出れば、もう、キミとの関係は終わり。




切り離された世界へと、また、身を投じる。




雨の音。夜の色。

キミの知らない、オレの世界。




ゆっくりと閉まるドアの向こうに、柔らかな光と甘い匂い包まれたキミが切なく見えた。


手のひらには、まだ、触れた手の感触が残ってて、振り返りそうになる気持ちを心の奥に押し込んで踏み出す。



夢みたいなものだから、
この夜の出来事も、キミが拾った仔犬も。



朝が来れば、また、ひとり。



ミツが待ってる。



自分で自分に現実を突きつけて、夢から抜け出そうともがくのに、ちっとも進まない足取りは、もう、それこそが現実で、気がつけば向きを変えて、キミの部屋のドアの前に逆戻り。


ドアを開ける理由なんて、開けてから考えればいい。



――― ガチャッ



思い切りドアノブを引くと、鍵は、開いていて


「どっ……どうしたの？」


おそらく、鍵をかけようとしていたキミとぶつかりそうになる。


言い訳は、すぐに口をついて出てくる。





「忘れてたっ。

名前っ！名前聞いてないよ。
こんなに一緒にいて、いっぱい喋ってたのに！」





きっと、それは、言い訳なんかじゃなくて、本当に聞きたかったから。





もっと、キミを知りたかったから。





「今さら？」





困ったように、

照れたように、

迷惑そうに、


でも、


嬉しそうに強がるキミの声に、心から祈った。






どうか、この関係が

『恋愛とは違う関係』でありますように。





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