すべてはキミに恋するため

本心 ページ31

「何ともないよ。」


そう言って、指先を見せるキミがおにぎりを持って振り返る。


「…… うん。」


小さな声で、キミが何か呟いた気がしたのは、オレの空耳？


何事も無かったように、おにぎりをラップから取り出している姿に、聞くに聞けないタイミング。


それに、踏み込まないって決めたから。

オレは、『ニカ』でいられるように、


「よかったわ〜。焼おにぎり、中止になるかと思ったわ。」


ちょっとふざけたテンションで、わざとらしく胸を撫で下ろして、言った。

おにぎりに何やら混ぜ合わされた味噌を塗りながら、オレを見たキミが笑顔で言った。


「ﾌﾌｯ 年取ると指先の皮も厚くなるから、火傷とかしなくなるんだよ。」


ほら、大丈夫。

火傷もないし、キミとの距離も適当。


ちょうど良くバランスをとって、深入りしない。


トースターにおにぎりを入れるキミの背中に、聞いてみる。


「年取るって……… 何歳なの？」


悪気なく、ニカらしく。


「いやいやいや、一応、女子だから。
年齢聞くのとかはねぇ。」

「『一応』女子って…アハハっ。」


心地よくやり取りされる会話。
怒られるかなって思ったオレの言葉は、さり気なくかわされたようで、キミは、呆れたような、諦めたような、そんな声で答えた。


「……… 29。29才だよ。」

「えっ？ちょっとびっくり。オレ、24。
あまりにも喋りやすかったから、同じくらいかと思ったわ。」


居心地のいい雰囲気なのに、予想外の年上で驚いた。


「アラサーで悪かったわねっ。」

「あれっ？
若く見えるねって意味だよ？」


本心で言ったのに、上手く伝わらなくて。


怒らせちゃった？


「え？あれ？ホントに！！！」

「はいはい。」

「5歳も違うと思えないよ！ホント！」


こういう時は、なんて言ったらいいんだろう。

ミツとか、ガヤだったら、もっと上手くフォロー出来るんだろうけど、残念ながらオレは『ニカ』で、気の利いた言葉なんてちっとも出てこない。


「あ……あーー、うーーー。」


脳みそフル回転で唸っていると、焦げた味噌の香ばしい匂いがしてきて、キミが半笑いでこの会話の終わりを告げた。


「はいはい、年齢の話は、もう終わり。
焼おにぎり出来たよ。」

「やったー。」


キミが怒っていなかったことと、焼きおにぎりが出来たことに、嬉しくて心から声が出た。

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