すべてはキミに恋するため

ほっとけないキミ ページ22

「あの……大丈夫ですか？
鍵、どうします？」


うっかり鼻水垂らしそうになるオレに、優しく声を掛けてくれるから、お隣さんとしては、ご近所付き合いだと思ってつなげる会話。


「あ、あぁ、とりあえず、こんな時間だし、一先ずメンバー……あ、友達の所へ。
もうすぐ、迎えに来てくれると思うけど…。」


そう言って、袖口を引っ張って指先を押し込む。


「………遅いな。」


通路から空を見上げると、さっきよりも厚くなった雲が空を低く感じさせた。

つられるようにキミが夜空を見上げると、



――― ポツリ



降り出した雨。



白い息を吐くキミの横顔に、少しだけ見とれた。



雨の夜空を見上げていたキミが、視線をオレに戻して、不自然なことを自然に言った。




「あの……、
よかったら、部屋で待ちます？」




深夜も深夜、ド深夜で、ほぼ初対面の隣人だよ？

しかも、男だよ？

いきなり握手迫って、ファンじゃないの？とか、言ってるやつだよ？



オレだったら絶対に怪しいと思う。



なのに、キミは、そんなオレに向かって、なんてこと無い表情で言ったんだ。

思わずこっちがポカンとしちゃって、なんて答えたらいいかわからなくて黙り込む。


一瞬、なんの音もなくなって、また、雨の音が聞こえてきた。


どう答えるのが正しいのか、頭の中で色々なパターンを探していると、目の前のキミが慌てだす。


「あっ、いやっ…。」


あんなに自然に誘っておいて、今度は、ジタバタし始める姿がおかしくて。


「あの、その、
雨、降ってきちゃったし…寒いし…。」


必死に自分の言葉をフォローして、すればするほど、言い訳にしか聞えなくて。

でも、何故か、そんなキミが気になって仕方ない。


「手…冷たかったし…。」


小さくなっていく声は、もう、オレを誘ってなんてなくて、自分の指先を握って、俯いていた。




疑ってごめんね。

きっと、キミは、ただのお節介。




「なんか、放っておけないし…。」




自分自身すらフォローできない、不器用な優しさが伝わって来る。


言い訳になる言葉が見つからなくなったキミが、俯いたまま黙り込んで、辺りは静まり返る。




ねぇ、ミツ。

これも、恋愛とは違う関係ってやつ？




強引なのに、怖がり。
優しいのに、不器用。




オレのこと、
ほっとけないっていうキミのこと、




なんか、

もう、




オレの方が、




ほっとけないんだけど。




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