すべてはキミに恋するため

言い訳 ページ14

「おはようございまーす。」


エントランスの車寄せに止まったワゴン車に乗り込んで、席に着くと、すぐに車は、走りだした。

丸めたイヤホンのコードが絡まって、少しイライラしながら解きにかかると、真後ろの席から千賀が顔を出した。


「うぉっ？！ビックリしたー。乗ってたの？」

「乗ってるわ！なんで気が付かないんだよ！」


本当にビックリして、思わず落としたイヤホンを拾うと、窓の外に遠ざかるマンションが見えた。


「引っ越したんだね。知らなかった。」

「知るわけないだろ。今日、引っ越したばっかりなんだから。」

「え？今日？」

「そ。今日。」


驚く千賀が窓の外を眺めて、もう、見えなくなる新しいオレの部屋を探してた。

やっと解けたイヤホンをスマホに差し込んでいると、オレの耳元で、急にボリュームをおとした声で言った。




「……彼女と、住むの？」




まぁな……

まぁ、そう思われても仕方ないよな。




自分から彼女と別れたなんて言いふらすのも女々しいし、メンバーに言わなきゃいけない義務もない。

だから、黙ってたってだけなんだけど、誤解されたくもないから、これは、いいタイミングなのかもしれない。




「……別れたから。」




「えっ？！」

「いちいち、うるせーなー。」


驚いて、挙動不審にキョロキョロしてる千賀を無視して、イヤホンを耳に入れる。


「なんか……、ごめん。」

「別に。」


謝る千賀に、素っ気なく返して、音楽を流す。


多分、千賀は、大人しく座り直して、

『ニカ、大丈夫かな？』とか、

『ニカ、落ち込んでるかな？』とか、

心配してそうだけど、オレの頭の中は、全然違うし。



『隣の部屋には、キレイな女の人が住んでるよ。』



って、ミツに話したくて、ワクワクしてるだけだから。




気にしないでいいよ。




言ってやりたいけど、時々なら、心配されるのも悪くないよね。


だから、そのまま、何も言わずに、目を瞑った。

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