すべてはキミに恋するため

相談相手 ページ41

結局、借りたはいいけど、返すタイミングがわからず、そして、返すチャンスもないまま、Aちゃんに借りたビニール傘は、オレの部屋の玄関に置きっぱなし。

ドアを開ける度に、オレを出迎えてくれる傘をどうやって返したらいいか、途方に暮れ始めた数日後。



マジで、どうするのが正解？



「……んーーーーーあーーーーー。」

「うっるせぇなぁ！」

「はっ！びっくりしたー。ミツか。」

「さっきから、うるせぇんだよ。あーーとか、うーーとか。」


無意識で唸っていたらしく、楽屋のソファで昼寝してたミツが迷惑そうに起き上がって、こっちを見た。


「……ミツ、か。」

「あぁ？」


まだ、眠そうな声で返事をして、もう一度、寝る体勢になろうとするミツを慌てて引き止める。


「待って！寝ないで！」


たぶん、こういうのは、ガヤに聞いた方がいい案件だと思う。

でも、オレが、ガヤみたいに、オシャレで気の利いた、イケメンな対応が、同じように出来るかって言われたから、たぶん……いや、ほぼ出来ない。


「なんだよー。寝みーよ。」




ミツくらいが丁度いい。




「あ、あのさ……。」


運良く、他のメンバーは、誰もいない。

すかさずソファの隣に座って、できる限り平静を装って話し出す。


「借りた物、返す時って、どうしたらいい？」

「は？」

「借りた物。あ、ビニール傘なんだけどね。返す時って、どうしたらいいの？」

「…………バカもそこまで進んだか。」


憐れむようにそう言って、大袈裟にオレを遠ざけるように身を引くから、その両腕を捕まえる。


「いや！そうじゃないから！」


全力のオレの訴えに、唇の端で笑う。




たぶん、バレてる。




いや、絶対に、バレてる。




「……お隣さんに、借りた傘。」




掴んだ腕を離して、白状する。



あの雨の日。

鍵をなくしたオレを仔犬みたいって言った、お隣りさんの傘。



「ﾝﾊﾊｯ お前、本当に、バカだな。そういうのは、オレより、藤ヶ谷だろ？」

「ガヤは、レベルが高すぎる。」


真顔で答えると、軽く頭を叩かれて、ケラケラ笑いながら「それは、オレに失礼だろっ！」って、言った。



ほら、やっぱり、ミツくらいが丁度いい。



ミツとオレのテンポは、どこか、Aちゃんとのテンポに似てるから。

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