すべてはキミに恋するため

残された言葉 ページ12

「とりあえず……。」


玄関のダンボールの中から、ビーサンを発掘して、それを持ったまま日当りのいいリビングを抜けて、バルコニーへ出る。

ポケットから手探りで取り出したタバコをくわえて、火をつける。

ゆっくりと吐き出す煙が、ユラユラと青い空に漂って流れていくのをぼんやりと眺めた。


今日、ここから始まるオレの毎日は、どんな日々になるのかな？


「できれば、楽しく生きていきたいんですけどね……。」


見上げた空に呟いて、もう一度、ゆっくりと煙を吐き出した。






カーテンをつけて、トイレットペーパーを設置して、必要最低限の食器と洋服をそれぞれ収納する。

すぐに必要にならない物は、小さなサービスルームにまとめてから、お掃除ロボットを充電。

仕事から戻ってすぐにお風呂に入れるように風呂掃除、バスグッズを用意して、一息つく。


「オレ、できる子！」


当たり前だけど、自分しかいない部屋じゃ、誰も褒めてくれないから、自分で自分を褒めて、時計を確認すると、仕事の時間が迫っていた。


「やべっ。」


少し焦って、身支度を整える。
持ち物なんていつも適当だから、今日も適当。



ただ、いつもと違うのは、この部屋のカギ。



飾り気のないリングに通された鍵は、２本。

どちらも、オレのカギ。



緑色のクマは、このカギを迎えに来ない。

来なくていい。



不意に襲う、カノジョの残していった言葉たち。



理解出来ることと、理解できないことが、オレの中で消化しきれなくて、未練とは違う気持ちに問い詰められる。



オレは、遠くなっていたの？



ファンの距離って、どういうこと？



幸せな夢って、何？




オレは、どうしたらよかったの？




カノジョが求める『高嗣』でいなきゃいけなかったの？




それなら、きっと、それは、


『高嗣』


じゃなくて


『ニカ』


って、ことだよ。

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