嫉妬《Ki→S》6 ページ23
何を飲んで、何を食べて、何を喋ったのか、思い出せない
少しも酔えない頭は、いつもよりクリアだった。
店を出ると、金曜の夜は、まだまだ始まったばかりとでも言うような人の流れとざわめきが渦をまいていた。
終電には、まだ、時間がある。
「ご馳走様でした！」
Aの友達が頭を下げて、その隣でAが柔らかに笑った。
遅れて店から出てきた健永が少しふらついて、オレの肩に手をついた。
「おいっ、大丈夫かよ？」
「へーき、へーき。カラオケ行く？」
そう言ってへらっと笑う姿にイラついて、軽く肩を振ってその手を払った。
「……行かねぇよ。」
思ったより低い声が出た。
感情を押し殺したような、抑揚のない声だった。
「Aは、オレの部屋に帰るから。」
「えっ？」
Aの手を掴んで引き寄せると、驚いたようにオレの顔を見て、それから、友達に視線を送った。
「ごめんね。健永が送るから。」
「オレ？！」
何の打ち合わせもなく投げられた健永が戸惑ってるのなんて、知らねぇ。
「……あ、はい。そうですよね。ﾌﾌｯ」
まんざらでもない友達は、ヒラヒラと手を振った。
不安げな視線がオレの横顔に向けられてるのは、気がついてる。でも、止められなかった。
「……行こう。」
「みっくん。あのっ。」
Aの言葉を無視したのは、初めてかもしれない。
健永の顔なんて見られなくて、置き去りにした。
それから、オレもAも一言も発することなく、駅に向かって歩いた。
ただ、ギュッとその手を握って。
小さな手は、必死にオレにしがみついた。
それだけで十分じゃねぇか……。
なのに……。
発車ギリギリで乗り込んだ車両は、金曜夜の独特の香りと解放された大人で埋め尽くされていた。
閉まったドアに、Aの背中を押し付けて、他の誰からも触れさせないように体を寄せた。
「A……、健永と知り合いだったんだな。」
言わなくてもよかった。
でも、言わずにはいられなかった。
「…………うん。」
泣きそうな声が返ってきた。
俯くAの表情は、見えなくて、ただ、小さな手がオレの手をギュッと握った。
だから、何だよ。
それをAに問いただして何になる。
追い詰めて、何になる。
イラつく原因は、わかってるんだ。
嫉妬。
電車が揺れた。
体がもっていかれる。
「……A。」
小さな手を握り返して、揺れる車内で彼女を抱きしめた。
＊ end ＊
梅雨《after story of キミ声》→←嫉妬《Ki→S》5
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 995人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「Kis-My-Ft2」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
植尾あい(プロフ) - nanacoさん» んふんふ(//∇//)楽しんでいただけたようでよかったです！こういう雰囲気は、藤ヶ谷くんが似合いますよねぇ。また、イチャイチャするだけのお話を書きたいなーと、思いました！ (2020年7月31日 17時) (
レス) id: 3c990321a7 (このIDを非表示/違反報告)
nanaco(プロフ) - 甘々藤ヶ谷さん！(//∇//) ごちそうさまでした、最高すぎます…(TT) ありがとうございます(TT) (2020年7月30日 23時) (レス) id: a7b3edb10a (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ナナさん» ナナさん！！！お久しぶりです！お元気でしょうか？ そうなんです！星に願いをに続いて、運命なんです！伝わってよかった(^^) 切ないけど幸せな気持ちになってもらえたら嬉しいです。 (2020年5月30日 13時) (レス) id: 3c990321a7 (このIDを非表示/違反報告)
ナナ(プロフ) - あいさんお久しぶりです！！これは運命…と気づいた瞬間に涙が…。心がポッと暖かくなりました！！ (2020年5月30日 1時) (レス) id: 3bad9f733c (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ソフィアさん» 年下俺様生意気な渉に迫られて、メロメロですよね。年上イメージがある横尾くんですが、こんな関係も時にはありかな？と。楽しんでいただけて良かったです！ (2020年5月8日 22時) (レス) id: 3c990321a7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：植尾あい
| 作成日時：2018年9月12日 22時
