私の先輩《F》3 ページ11
「もうすぐ、できるけど……。」
「あぁ。」
コトコトと揺れるシチュー。
美味しい匂いが部屋を満たして、腹ペコの私のお腹は、気を抜くと音を立てそうだ。
でも、まだ、テーブルの上にはノートパソコンが陣取っていた。
「もう少し、かかるかな……。」
パソコンの画面に視線を戻したカレがトーンを落として言った。
「それじゃ、コーヒーでも入れる?あ、お茶?」
邪魔しない。
鍋に蓋をして、火を止めた。
キーボードを叩く指先。
真剣な眼差しの横顔。
「いや、今は、いいわ。」
私に触れた手は、まだ、仕事モード。
「……そっか。」
仕方ない。
仕事だもん。
でも、少しだけ寂しくて、キュッと口を噤んだ。
忙しいのに、こうやって会ってくれるだけでも幸せ。
自分に言い聞かせてから、洗い物でもしていようと、シンクに水を流すと、テーブルに置かれていた藤ヶ谷先輩のスマホが震えた。
「ごめん。電話。少し静かにして。」
早口でそう言って立ち上がると、私に背を向けた。
「はい。」
もはや、職場みたいな空気に、私も仕事モードになって、水を止めて、スポンジを置いた。
「はい、藤ヶ谷です。……はい。」
電話の相手に、ハキハキと返事をする背中。時々、楽しそうに笑う。
……なんか、私と話すより、楽しそうだし。
電話の相手に、ヤキモチをやいて、少しだけイジける。
「はい。それでお願いします。はい。大丈夫です。」
なんか、もう、わからなくなってきた。
私、何しに来たんだろ。
息をひそめて、キッチンに立つ私は、今、藤ヶ谷先輩にとって、どんな存在?
「失礼します。」
電話を切った藤ヶ谷先輩が、背を向けたまま、フッと息を吐く。
だんだん悲しくなってきて、タオルで手を拭いてから、溢れそうになる涙を飲み込んだ。
ダメだ……。
一度、マイナスに向いた思考は、自分を追い詰めてしまう。
「シチュー、温めて食べてね。仕事、忙しそうだから、今日は、帰るね。」
冷静を装って、ダイニングの椅子に置いた荷物を掴んで、まだ、背中を向けたままの藤ヶ谷先輩の横を通り過ぎた。
通り過ぎようと思った。
通り過ぎたつもりだった。
なのに……
「A。」
その一言で、私の足は、動かなくなって。
「まって。」
その一言で、涙が込み上げて。
「もう、終わり。」
その一言で、胸が苦しくなって。
「……意地悪。」
私の一言で、藤ヶ谷先輩は、私をギュッと抱きしめた。
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植尾あい(プロフ) - nanacoさん» んふんふ(//∇//)楽しんでいただけたようでよかったです!こういう雰囲気は、藤ヶ谷くんが似合いますよねぇ。また、イチャイチャするだけのお話を書きたいなーと、思いました! (2020年7月31日 17時) (レス) id: 3c990321a7 (このIDを非表示/違反報告)
nanaco(プロフ) - 甘々藤ヶ谷さん!(//∇//) ごちそうさまでした、最高すぎます…(TT) ありがとうございます(TT) (2020年7月30日 23時) (レス) id: a7b3edb10a (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ナナさん» ナナさん!!!お久しぶりです!お元気でしょうか? そうなんです!星に願いをに続いて、運命なんです!伝わってよかった(^^) 切ないけど幸せな気持ちになってもらえたら嬉しいです。 (2020年5月30日 13時) (レス) id: 3c990321a7 (このIDを非表示/違反報告)
ナナ(プロフ) - あいさんお久しぶりです!!これは運命…と気づいた瞬間に涙が…。心がポッと暖かくなりました!! (2020年5月30日 1時) (レス) id: 3bad9f733c (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ソフィアさん» 年下俺様生意気な渉に迫られて、メロメロですよね。年上イメージがある横尾くんですが、こんな関係も時にはありかな?と。楽しんでいただけて良かったです! (2020年5月8日 22時) (レス) id: 3c990321a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:植尾あい | 作成日時:2018年9月12日 22時