温度《after story of キミ声》3 ページ20
ローズの香りがするバスソルトを入れて、いつもよりゆっくりと温まってからバスルームを出ると、落ち込んでいた気分は、少しだけ前向きになっていた。
立ち込めるローズの香りに包まれながら、ドライヤーをかけると、少しだけ気分が軽くなった。
リビングに戻って、冷蔵庫を開ける。
ミネラルウォーターのキャップを開けて口をつける。
自分以外の音がしないリビングに目を向けて、ハッとする。
オレンジ色に染まるリビング。
消えたテレビ。
ローテーブルには、
私のスマホの隣に、
犬が咥えていそうな骨のチャームがついた部屋の鍵。
慌ててカウンターにペットボトルを置いて、寝室の引き戸に手をかける。
すりガラスの向こう、ベッドの上に、小さな山。
音を立てずに、そっと、寝室を覗き込むと、毛布の端からフワフワと茶色の髪が見える。
「ニカ。」
小さく呼んだだけで、胸がいっぱいで苦しくなる。
会いたくて、
会いたくて、
こんな夜は、もっと会いたくて。
その温もりに触れたくて。
ベッドに近付いても、まだ、振り向かないその背中に、もう一度呼ぶ。
「……高嗣。おかえり。」
柔らかな髪に触れて、撫でると、フワリと香るシャンプーの匂いが、私のものでも、ニカのものでもなくて、きっと、どこかの仕事場のシャンプー。
それは、ニカが、自分の部屋ではなく、私の部屋に帰ることを選んでくれた証。
いつもなら、『Aちゃんが寝不足で、ブスになったら困るから』とか、なんとか、変な理由をつけて、こんなに遅い時間に私の部屋に帰ってくることは無い。
それは、ニカの優しさ。
わかってる。
でも、今夜は、帰ってきた。
私がバスルームにいることだって気づいてたでしょ?
「ニカ?」
ベッドを揺らさないように、気をつけながらそのふちに座ると、茶色の髪が揺れる。
そして、ゆっくりと振り向いたニカと目が合う。
「……びっくりした?」
少し疲れて、いつもより掠れた声が深夜のトーンでそう言った。
「うん。びっくりした。」
私の声に、嬉しそうに目を細めて、包まる毛布の中から、長い腕が伸びる。
整えられた爪先が頬に触れ、反った親指が頬を撫でる。
その温度は、温まった私よりずっと冷たくて、ニカがこの部屋に帰ってきたのがついさっきなんだってわかる。
「ニカの手……、冷たい。」
そっとその手に、自分の手を重ねて、包み込む様に握ると、照れた様に眉を下げて『ゴメン』って、笑った。
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植尾あい(プロフ) - はんちゃんさん» ありがとうございます!チャラみつとの約束が果たされたのか、確かに気になりますよね。何万人といるファンから、主人公ちゃんを見つけることができたのか……書いてみたくなりました!リクエストありがとうございます! (2019年2月12日 20時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
はんちゃん(プロフ) - はじめまして。どれも素敵です!!けど、チャラみつの「夜明けのキセキ」1ページにギュッと詰まってますね、1ページですごく惹き付けられました。上手く言えないけど、すごいですね!このエピソードで、話膨らませて続き読ませて欲しいです! (2019年2月10日 1時) (レス) id: 0785dd2a14 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ひよさん» 意地悪な玉森先輩、初めて書いたのでいじわる加減がわからず……でも、キュンとしてもらえてよかったです!卒業シーズンのソワソワと切なさに、自分でもキュンとしました(笑) 初めてTwitterでのメンバー投票だったのですが、私も楽しかったので、また、やります! (2018年3月9日 15時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - hitomin0921さん» 『好きか嫌いか……』シリーズは、メンバーとの距離感が難しくて、でも、切なくてキュンとするシチュエーションで、書いてる私もドキドキしてます(笑) きっと、横尾くんは、起きていたと思いますよねンフフ 他のメンバーも楽しみにしていて下さいね! (2018年3月8日 22時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - はぁぁぁぁぁ玉森先輩好きです。玉ちゃんに一票投じたものです。幼なじみのお話だけど今の時期のお話で甘酸っぱくてキュンとしちゃいました。ちょっと続きを妄想しちゃいます! (2018年3月8日 22時) (レス) id: a35722cf0d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:植尾あい | 作成日時:2015年7月16日 22時