１：ｎの恋愛構図

温度《after story of キミ声》1 ページ18

誰かに八つ当たりできれば、スッキリする？


でも、それって、やっぱり八つ当たりだから、その後、申し訳なさとか、後悔とか、後味の悪い空気しか残らないと思うの。


誰が悪いって、やっぱり自分だから……


帰り際のトラブルに巻き込まれ、その処理に追われ、原因を突き詰めていったら、半年前に、私が開発責任でリリースしたシステム対応のミスに辿り着いた。

優しい上司も同僚も、対応に手を貸してくれた後輩も、誰も私を責めたりしなかった。

それは、社会人として、チームとして仕事をしているから、ありがたい優しさ。


対応が終わったのは、終電間際で、キチンとした謝罪もお礼も言えないまま、ただ、頭を下げて

『大丈夫だよ』

『誰だってミスくらいするよ』

『今度、何か奢って下さいね』

って、優しさに背中を押されて電車に乗った。



改札を抜けると、吹き付ける風から冬の匂いがして、指先から体温を奪う。

巻き付けたストールに、肩をすくめて口元まで埋るようにして歩き出す。

おそらく、会社のロッカーに忘れてきた手袋を惜しみながら、ジャケットのポケットに手を入れた。



恋しくなるのは、

大きくて温かな、キミの手。



ポケットの中で、ギュッと手を握って、踏み出す。駅から離れるにつれ、まばらになっていく人の流れに、ヒールの音を響かせ、歩く速度を上げた。


途中、いつものコンビニに寄って、プレーンヨーグルトを手に取った。

冷蔵庫の中には、ギンガムチェックの蓋が可愛いジャムの瓶。


そこに手書きで書かれた

『ワッターのジャム』

って、小学生みたいな字。


思い出して少しだけ胸の奥があったかくなる。


ダルそうな深夜バイトのお兄さんに『ありがとうございましたー』と、心のこもらないお礼を言われて外に出ると、短時間の寄り道で温まってしまった体に、夜の空気が染みた。


「さむっ！！！」


思わず声に出して、すれ違ったカップルにチラ見されながら、コンビニを後にした。





こんな惨めで寒い夜は、

キミの温度が恋しいよ。





ねぇ、ニカ。

今夜は、ひとりで眠るの？




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