１：ｎの恋愛構図

少女マンガな彼《S》2 ページ13

「ちょっと、笑うとか酷くない？」

「ごめんごめん。」


流れ出すストーリーに視線を戻して、恋する主人公の繊細な心理描写と、まだ、わからない彼の気持ちに揺れる恋心に、いつかの私を重ね合わせる。

あまりにも当たり前になってしまって、忘れてしまいそうになっていた健永への恋心。

ふいに私の左手を健永の温かい手が包み込むように触れる。

寄り添うように健永の肩に寄りかかっていた顔を上げて見上げる彼の顔は、整った唇といつも潤んでいる大きな瞳が、真っ直ぐに私を見つめていた。



「オレに、もっと、ドキドキしてよ……」



囁かれた言葉が、それだけで私をドキドキさせて、身動きが出来なくなる。


「……健永。」


スクリーンには、賑やかな街並みを彼女を追って走る彼の姿。



「ねぇ、オレの事、好きでしょ？」



ゆっくりと近づく唇が、触れる直前にそんな事を言うから、ドキッとしてしまう。



「ねぇ、言ってよ。『好きよ、健永』って。」



いつも、可愛くて、優しくて、穏やかな健永から、少しの支配欲を感じて、不覚にもキュンとする。



「言ってくれるまで、このままだよ？」



上映中の暗がりと、レイトショー故の閑散とした空席をいいことに、触れるギリギリの距離で唇を止める。

久々のデートで、少女マンガ原作の映画も悪くない。

まるで、少女マンガの王子様みたいに見える健永の頬に、指先で触れて、ヒロインみたいに言ってみる。



「好きよ、健永。」



自分で要求したくせに、はにかんだ笑顔になった健永が、やっぱり、すごく健永らしくて、残されていたわずかな距離を私の方から詰めて、キスをした。


「ねぇ、本当に、こんなドラマに出ることになったら、私、ヤキモチ妬くからね？」

「えっ？！」


私の本心に、今度は、健永が声を上げるから、人差し指を綺麗な唇に押し当てて、『シーーーッ』って、笑ったら、私の指を掴んだ健永が、もう一度ゆっくりと少女マンガみたいなキスをしてくれた。


＊end＊

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