１：ｎの恋愛構図

少女マンガな彼《S》1 ページ12

レイトショーの映画館は、いつもよりも静かで、空間が広く感じる。

薄暗かった館内が一瞬真っ暗になって、それから、足元を照らすささやかなダウンライトと、スクリーンに映し出される予告編が辺りをぼんやりと照らす。

正直、久々のデートが少女マンガ原作の映画って言うのも、ちょっとどうかと思うけど、彼がどうしても観たいって言うから仕方ない。


「Aちゃん、あんまり興味なかったでしょ？」


プラス５００円で手に入れた、座り心地のいい広めの座席に埋もれながら、温かいカフェオレを両手で包み込んで、ぼんやりとスクリーンを眺めていると、隣の席からカレが覗き込んできた。


「そんなことないよ？健永、観たかったんでしょ？」

「……うん。」


申し訳なさそうにする健永に、笑いかけてカフェオレを肘掛のカップホルダーに置いてから、広めの座席で健永に寄り添うように身体を傾けた。

人の少ないこの時間の映画館だからこそ出来る、私たちの外デート。

私よりはるかに乙女チックなドラマが好きで、感情移入し過ぎて泣いちゃう健永が可愛くて仕方ない。


「ねぇ、Aちゃん……」


本編のオープニングが流れ始めて、耳元に寄せられた唇が、少しだけ小声になって私を呼ぶ。


「なに？」


「オレがさ、こんな感じのドラマとか映画に出ることになったら、どうする？」


「えーっ？！」


突然の予想もしない質問に、思わず声が大きくなると、慌てたように私の唇に人差し指を押し付けて「シーーーッ」って、言いながら目を細める。


「……出るの？」


期待を込めた私の質問には答えず、ただ、含み笑いを返してくる健永に、少しイラつきながら想像してみる。

目の前のスクリーンに映し出されている甘いプロローグ。

出会いの瞬間から恋に落ちる２人が見つめ合う、そして、優しく彼女の髪を撫でて、頬を染めて俯く彼女の手を取って駆け出す桜のトンネル……

彼が……健永だったら……



「ごめん……想像出来ない。ｸｽｸｽ」



いつも、どこか作り込みすぎてしまう健永を想像して、堪えられずに笑いが漏れる。

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