意地悪なカレ《T》4 ページ47
何度も練習したはずの送辞は、本番という緊張のせいで、自分が読んでいるのか、もう一人の自分が読んでいるのかわからない感覚のままやり遂げた。
もちろん、本番に強い卒業生代表の玉森先輩は、堂々たるもので、素晴らしい答辞を述べて、会場の涙を誘った。
卒業したって、離れることのない私たちの環境は、安心感と引き換えに、この関係を壊せない。
いつまでも、卒業なんて出来ない。
卒業生退場の曲が流れはじめ、在校生の中を列になって退場していく晴れ晴れしい顔や、泣き顔。
席から立ち上がる裕太が見えた瞬間、私の中で何かがプツンと切れて、涙が溢れ出した。
ゆっくりと近づくその姿は、涙で滲んで、通路際の座席を恨んだ。
「Aちゃん。」
優しい声がして、柔らかな手のひらが肩に触れた。
顔を上げれば、宮田先輩が笑ってて、ますます涙が止まらなくなった。
「……玉、もうすぐだよ。」
前を向けば、すぐそこに背の高いシルエットが見えて、慌てて手のひらで涙を拭った。
「もぅ……、やだ。」
止まる気配のない涙に、文句を言って、片手で頬を覆うと、その手は、大きな手に捕まれ、引き剥がされた。
「A、『卒業おめでとう』は?」
顔を上げれば、そこには、意地悪なカレ。
立ち止まるカレの後ろに、卒業生の渋滞ができて、必然的に私たちに視線が集まる。
「ちょっ……裕、……玉森先輩、進んで。」
恥ずかしくて、小さな声で注意しても、歩き出す素振りもないどころか、完全に私の方を向いて立ち止まる。
「『卒業おめでとう』って、言えよ。」
意地悪だ。
「……卒業、おめでとう。」
口に出せば、それは、当たり前の現実で、もう、一緒に登下校することも、忘れ物を届けることもない日々のスタートとなる。
意地悪。
「ありがとう。」
裕太の声が、さらに涙を溢れさせ、渋滞に気がついた先生が、こちらに向かって来るのがぼんやりと見えた。
「早く……、行って。」
私の言葉に、裕太が笑って、その大きな手で私の頬を包むようにして涙を拭った。
「A。好きだよ。」
優しい声が、その手の温かさが、他の何もかもを聞こえなくして、時が止まった。
驚き過ぎて止まった涙。
周囲の生徒の悲鳴と、はやし立てる声、そして、笑い声。
フリーズする私をそのままに、裕太は、通り過ぎて行った。
意地悪。
意地悪だ。
カレは、私にだけ、意地悪だ。
* end *
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植尾あい(プロフ) - はんちゃんさん» ありがとうございます!チャラみつとの約束が果たされたのか、確かに気になりますよね。何万人といるファンから、主人公ちゃんを見つけることができたのか……書いてみたくなりました!リクエストありがとうございます! (2019年2月12日 20時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
はんちゃん(プロフ) - はじめまして。どれも素敵です!!けど、チャラみつの「夜明けのキセキ」1ページにギュッと詰まってますね、1ページですごく惹き付けられました。上手く言えないけど、すごいですね!このエピソードで、話膨らませて続き読ませて欲しいです! (2019年2月10日 1時) (レス) id: 0785dd2a14 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ひよさん» 意地悪な玉森先輩、初めて書いたのでいじわる加減がわからず……でも、キュンとしてもらえてよかったです!卒業シーズンのソワソワと切なさに、自分でもキュンとしました(笑) 初めてTwitterでのメンバー投票だったのですが、私も楽しかったので、また、やります! (2018年3月9日 15時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - hitomin0921さん» 『好きか嫌いか……』シリーズは、メンバーとの距離感が難しくて、でも、切なくてキュンとするシチュエーションで、書いてる私もドキドキしてます(笑) きっと、横尾くんは、起きていたと思いますよねンフフ 他のメンバーも楽しみにしていて下さいね! (2018年3月8日 22時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - はぁぁぁぁぁ玉森先輩好きです。玉ちゃんに一票投じたものです。幼なじみのお話だけど今の時期のお話で甘酸っぱくてキュンとしちゃいました。ちょっと続きを妄想しちゃいます! (2018年3月8日 22時) (レス) id: a35722cf0d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:植尾あい | 作成日時:2015年7月16日 22時