１：ｎの恋愛構図

意地悪なカレ《T》1 ページ44

玉森先輩は、カッコイイ。


持て余しそうな長い足と、綺麗な手。

白雪姫もびっくりな透き通るような白い肌と、赤い唇。


フワフワふにゃふにゃの可愛い笑顔。

真剣な眼差しと、芯の通った度胸。




でも、私は、知っている……




「おせーよ、Aのくせに。」




カレは、意地悪だ。




「はぁっ？！忘れ物したのは、裕……た、玉森先輩の方でしょ？！たまたま、私が家を出る時に……




「口答えすんなよ、Aのくせに。」




しかも、かなりの意地悪だ。


私だけに！




「むっかつくっ！！！」


卒業式当日に、卒業生代表として答辞を読む人間とは思えない。しかも、その答辞の原稿を忘れて、届けてあげた私に対する態度が悪すぎる。


「まぁまぁまぁ、玉。ほら、せっかくAちゃんが届けてくれたんだから。そんな言い方しないの。」


制服の胸に、卒業生の花を付けた宮田先輩が見かねて止めに入ってきてくれる。


「宮田せんぱーい。卒業しちゃうなんて、寂しすぎますー。」

「オレも、Aちゃんと玉のケンカを止められなくなるなんて、寂しいわ。」

「何ですか、それ。ﾌﾌﾌ」


優しい笑顔と広い心の宮田先輩。
三年間、二人は、奇跡的に同じクラスで、いつも一緒だったのに、なんで、その性格は、直らなかったんだろう。


「宮田、行くぞ。」

「うん。」


私の手から、原稿の入った封筒を乱暴に奪い取るようにして、『ありがとう』の一言もなく、卒業式直前の騒がしい教室の奥へと入っていった。


「Aちゃんも、送辞、頑張ってね。」


宮田先輩の暖かな手が、勇気をくれるように、私の肩をトンっと叩いた。


「はい。」




今日は、私が裕太を見送る、４度目の卒業式。




置いてけぼりになる、４度目の卒業式。




.

意地悪なカレ《T》2→←好きか嫌いかお気に入り《Ki》4

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す