キミのその手を その声を 【9】

甘え上手 ページ24

ニカの言葉に、切ない音を感じながら、ベッドから足を下ろすと、気を抜いていた自分に思わず声が出る。


「うわぁっ！」


私の声に、振り向いたニカが視線を落として、口の端で笑って言った。


「何？Aちゃん、誘ってんの？」

「ちっ……違うから！」


ニカのパーカーが大きくてよかった……。


下着にパーカーという、何ともセクシーな状態に、裾を引っ張ってできる限り脚を隠しながら、部屋着のマキシスカートを拾い上げる。


「なんだ、残念。ﾝﾌﾌｯ」


ニヤケ顔のニカが、寝室を出ていくのを確認して、素早くスカートを履いて後を追う。


「もぅ！エロニカ！……っ」


リビングに踏み込めば、当たり前にクッションに座るニカがいて、その光景だけで胸がいっぱいになる。


ひとりだった部屋が

いつの間にか

ニカでいっぱいになって


失っていた恋に

もう一度

連れ出してくれた



「Aちゃん、ドライヤーしてー。」



そうやって

私の毎日と心に無邪気な土足で踏み込んで

巻き込んで



「はーやーくー。」




愛してくれた。




「もうっ！時間、大丈夫なの？」

「大丈夫だけど、急いでー。」

「時間ないんじゃない！もー。」


クッションに座るニカから、髪を拭いていたタオルを受け取って、ドライヤーを用意する。


私ばかりがバタバタして、出かけなきゃならない本人は、クッションから私を眺めてるだなんて、おかしくない？！


コードを伸ばしながら、クッションの後ろに回って、ニカの髪に指を入れる。

スイッチを入れて、吹き出すドライヤーの風を髪に当てて、いつもみたいに言う。


「熱くても、我慢してくださーい。」

「またかよっ！」


ニカの髪から、シャンプーの香りが広がる。
指をすり抜ける柔らかな髪の感触。

ニカの存在を感じさせてくれる、些細な現実の全てが、今の私の幸せの全て。

サラサラと風に靡く髪が、少し熱くなってきた頃、ドライヤーのスイッチを切って、そっとニカを撫でた。


「はい。おしまいっ。」

「ありがと！」


頭を振って、前髪を確認するニカをもう一度撫でてから、ドライヤーを片付けようと立ち上がると、私の手をニカが掴んだ。


「ん？何？」

「Aちゃん、言いたい事ない？」

「え？」


クッションに座って、私を見上げてくるニカが、可愛くて、ぐしゃぐしゃに撫で回したくなる。


「『行かないで』って、言ってもいいよ？」


なによ、もう……。

無意識のくせに、ニカの方が絶対に甘え上手。

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