恋、恋、恋 ページ11
二人分の食器を洗うのに、そんなに時間がかかるわけもなく、バスルームにニカの気配を感じながらひとりになる。
それは、ひとりだけど、1人じゃない。
もう、1人になんてならない。
もう、1人なんて選ばない。
きっちりとタオルで手を拭いて、ほうじ茶を入れたマグカップを持って、ニカに乗っ取られつつあるクッションに座ると、ローテーブルの下に片付けられた雑誌に手を伸ばす。
「お待たせしました。」
膝を抱えるように座って、雑誌のページを捲る。
艶やかな紙がパラパラと指先から滑って、数え切れない笑顔の連鎖が巡る。
「あっ。」
その中に、キミの姿を見つけて、指先を滑り込ませれば、笑顔のキミの左手首に巻き付く、ブレスレット。
指先でその存在を確かめるように撫でてみる。
ニカが私に向けたメッセージ。
「……ありがと。」
そのメッセージに、気がつく人がどれだけいるかは、わからない。
誰も気が付かなければいい。
私だけが気づければいい。
ブレスレットに刻まれた『nika』の文字は、私たちだけの暗号。
「……ごめんね。ごめんなさい。」
誰に向けるでもなく、こぼれる言葉。
誰も傷つけない恋ができればいいのに……。
無理だってわかっているし、その全てを背負ってでも、この恋を選んだのは、自分。
「大丈夫……。」
雑誌の中で様々な表情を見せる二階堂くん、そして、二階堂くんに恋する無数の想いを傷つけたりしない。
大丈夫。
誌面いっぱいに、ギュッと詰め込まれるみたいな、笑顔の7人。
私たちの恋が彼らの行く手を邪魔してはいけない。
その笑顔の向こうに、どれだけの恋がある?
心の奥から切なさがこみ上げて、膝を抱えて顔を埋める。
「何やってんの?」
しっとりと水分を含んだ大きな手が、俯く私の頭に触れる。
床に落とした視界に、指の長いつま先とグレーのスウェットの裾。
「キスマイみてたの。」
「ンフフ 何それ。」
少しだけ湿度の高い空気。
膝の上から隣に座ったニカへ顔を向けると、髪を拭くタオルの隙間から照れたような笑顔が見えた。
「それ、私のお気に入りタオル。」
「そうなの?」
ニカが、私の部屋のバスタオルの在り処を知っていることが、幸せ。
「オレもこのタオル好きだわ。」
私の好きなものを好きって言ってくれることが、幸せ。
「何か……、私の物が、どんどんニカに乗っ取られていく。」
「ケチケチすんなって。」
それも、幸せ。
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りな(プロフ) - こんにちは!昨日この作品を読み始めてハマってしまいもう読み終えてしまいました!あいさんの作品大好きです!もし差し支えなければkis soulのパスワードを教えていただきたいです!20歳のにかみつ担です! (2020年1月21日 23時) (レス) id: f006de2d90 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - kanonさん» kanonさん!何度も読み返していただけて感激です!こんな長い作品を夜中に一気読みとは、夜更かしさせてしまいましたね……ニカsideも、何度も読み返したくなる作品になるよう、頑張ります! (2019年1月7日 17時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
kanon(プロフ) - 何度読み直しても2人の空間にやられます!夜中に一気に読んでぼろぼろ泣いてしまいました。ニカのワンコ力、察知能力、優しさ、言葉…彼らしさがふんだんに盛り込まれてます。ニカサイドと交互に読んであちらの続きもお待ちしてます! (2018年12月24日 2時) (レス) id: 21ebf13f97 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ナツさん» 読み返してもらえて嬉しいです!ありがとうございます!個人的に北山くんと二階堂くんのやり取りを書くのがとても楽しくて好きなので、ミツ担さんにも好きになってもらえて感激です!北山くんと彼女もいつか書けたらなぁと思ってます! (2018年8月4日 17時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
ナツ(プロフ) - 初めましてのコメント失礼致します。本当に本当に大好きな作品で事あるごとに読み返してます!あれ?私、ミツ担のはずでは!?と自分でも整理できない感情はどこへ向ければいいのでしょうか?笑個人的にはミツの彼女さんとの馴れ初めも気になります♪ (2018年8月3日 8時) (レス) id: 8a0cb53120 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:植尾あい | 作成日時:2016年6月24日 7時