キミのその手を その声を 【9】

二人のこれから ページ1

ニカの胸は、温かくて。
抱きしめる腕は、優しい。


そっと、その背中に腕を伸ばして、抱きしめ返す。

私の髪へと顔を埋めるように、唇を耳へと近づけると、ニカの声が囁いた。


「話そうか……、オレ達のこれから。」


それは、私たちの恋の新しいスタートラインを引くような台詞。


「……うん。」


ニカの首元へ頬を寄せて、その存在を確かめるように、うなづいた。


こんなにも近くにいたのに、お互いのことを知るのが怖くて、本当の自分を知られるのが怖かった。


壊してしまうくらいなら、知らなくていいと思った。




もう、辛い思いをしたくなかったから。




でも、手にしたキミのぬくもりが、私のことを心の奥の傷跡ごと抱きしめて、



『好きだよ』



そう、言ってくれたんだ。





本当は、恋をしたかった。



ずっと、ずっと、

恋をしたかったんだよ。





ギュッとニカを抱きしめて、もう一度うなづく。


「私たちのこれからのこと、話そう？」


今度は、ニカが「うん。」って、言って、私の耳に小さくキスをした。

そして、ゆっくりと体を離してから、その長い両腕を私の首に掛けるようにして、指先を組んだ。


目の前のニカが真っ直ぐに目を合わせてくる。


心臓が煩い。


でも、その視線を逸らさない。

可愛いアヒル口も、滑らかな頬も、右目のフチのニカマークも、全部、私のものだから。


「オレ達のこれから……。」


いつもより落ち着いたトーンのニカの声。

首の後ろで組まれたニカの指が、私の髪を撫でた。




「話すことなんて、ないじゃん。ﾌﾌｯ」




言い切って、柔らかく笑う。


適当なようで、ちゃんとした意思のあるニカの言葉。


その言葉に、どれだけ救われてきただろう。



「どんなことがあっても、オレ達、離れたりしないから。

もう、わかったでしょ？」



意地悪に目を細めて、距離を詰める。


それは、私がニカから離れようとした日々を指して、でも、責めはしない言葉。


「うん。離れたりしなかった。
……できなかった。の、方が、的確かな。」


私の訂正を嬉しそうに聞いて、さらに距離を詰めてくる。


その距離は、もう、鼻先が触れる間際。



「ニカ、……ちょっと、近い。」



恥ずかしくなって、顔を背けようとすると、首の後ろから解かれたニカの両手が、私の頬を包み込むように触れた。



これは、もう、逃げられない合図。


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