キミのその手を その声を 【6】

しあわせ ページ25

ニカのお誘いは、丁重にお断りして、「だよね。」って、自分で言ったことに恥ずかしがってるニカをバスルームに送り込む。

洗面所のドアが閉まって、さらに遠くでシャワーの音が聞こえはじめたのを確認して、その場を離れた。





寝室のドアを開けて、クローゼットからニカのスウェットとＴシャツ、着替え一式を取り出す。



あの日のニカの抜け殻。



バスタオルと一緒に胸に抱くと、微かに残るニカの匂いと私と同じ柔軟剤の香りがした。



「着替えとタオル、ここに置いとくよ。」



バスルームのドアにそう言うと、シャワーの音に混じって「はーーい」って、ニカの返事が聞こえた。





リビングに戻ると、ローテーブルに、食べかけのプリンが仲良く並んでいた。

銀色のスプーンで一口食べてから、二つのプリンをくっつけるように並べた。



ーーー カシャッ



スマホの画面に収まる二つのプリン。


どちらも少しずつ欠けていて、まるで、私たちみたいだった。



「すごくおいしい。幸せ。」



口に出しながら入力する文字。

伝えたい相手は、真紀。


メッセージと共に、プリンの画像も一緒に送信する。




しあわせ。




伝わるかな。




真紀にも、もう、心配かけたくない。




そう思うけど、やっぱり、真紀には、心配させちゃうんだと思う。

私がどんなに取り繕っても、どんなに嘘をついても、どんなに強がっても、すぐにバレて、心配そうな顔をする。



もう、真紀には、全部お見通し。



私が送ったメッセージが既読になって、返信が届く。



ー よかった、私の分も二人で食べていいよ


ー いただきますっ(^_^)ゞ



すぐに返した私の言葉に、真紀からもすぐに返信がくる。





ー A？ひとりなの？





ほらね。





ー 違うよ


ー ニカは？



真紀には、敵わない。

こんな、無機質な文字だけの会話ですら、そこから、私の感情を読み取る。



ー 一緒だよ


ー よかった。ちゃんと、話するんだよ？



本当は、怖くて、怖くて、ニカのいないこの部屋が、また、私を閉じ込めてしまうことに怯えてる。






ー 今日は、ずっと一緒にいてくれるって






真紀の言葉に答えず、ニカの言葉を伝えた。






ー すごく、しあわせ






メッセージを送信すると、微かにバスルームのドアが開く音がした。

スマホをローテーブルに伏せて置くと、両手で顔を覆った。





ニカが戻ってくる。





それまでに、笑顔を思い出さなくちゃ。

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