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泣かない ページ18

手を繋いだままリビングへ入ると、つけっぱなしのテレビの向こうで、ガラリと雰囲気を変えたニカ達が歓声に包まれていた。


胸の奥が細い針で刺されたような痛みを感じる。


そんな私の気持ちを察したのか、ローテーブルの上に並べられた新品のCDやDVDを見てニカが笑った。



「ンハハッ Aちゃん、買ったねー。」


「だって……。」



何だか恥ずかしくなって、ニカの手を離すとリモコンの停止スイッチを押した。そして、並べられたCDやDVDを集めていると、いつもみたいなニカの声が私を追いかける。



「なんで停止すんの?この後、オレの見せ場だよ?かっこいいよ?」


「ちょっと……、自分で言わないでよ。」


「マジだから!見ようよ!」


「やだよ。」



いつもの私たちみたいな会話を装って、ニカを見ないようにする。
CDも、DVDも、全部袋の中へ戻して、テレビラックの引き出しへ入れた。



カッコいいニカなんかじゃなくていいの。



仔犬みたいに気まぐれで、


無邪気な小悪魔みたいに私を翻弄して、


オジサンみたいに心配性な、




私の前にいるニカを見ていたいの。




私の知ってるニカだけを、見ていたかったの……。




振り返ると不満そうな顔で頬を膨らますニカが私を見下ろしていた。


そう、これが、ニカ。


立ち上がってニカの前に進むと、思いきり両手で頬を潰して、そのまま、ニカの髪を撫で回す。



「ちよっ………やめっ、やめて。」


「フフフッ ヤダ、やめない。」



お願い、今日は、仔犬でいてね。



きっと、私の気持ちに気づいているニカは、仔犬の振りしてくれるよね。



ニカの柔らかな髪をかき混ぜる私の手を、ニカの大きな手が優しく包む。



真っ黒な瞳が私を捕らえて、切なく細められる。



「……… おなか、すいた。」



ほらね。優しい。



「うん。すぐに、準備する。」



ニカの優しい手からすり抜けて、背を向け、キッチンへ逃げ込む。

冷蔵庫のドアを開けて、その陰に隠れるようにして涙を拭った。



泣かない。



大丈夫。




どんなに遠く、会えなくても、ニカが心配しないように。




私のことで悲しまないように。




その笑顔を守るために。




無力な私ができること。




「雑誌も買ってきたのっ?!」



ローテーブルの下にあった雑誌を見つけたニカが大袈裟に声をあげる。



「だって、うちのペットが載ってるんだもん。」


「おいっ!ア・イ・ド・ルだっ!」





ねぇ、ニカは、笑っていてね。

その先の心配→←捕らわれた感覚



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植尾あい(プロフ) - 千明さん» if聞きながら?!私、自分の書いた妄想のくせに、それやると悲しくて涙ぐむんですよ……どうかしてる。祈りも最近やばいです。シーンタイトルにしちゃいました……切なくて苦しい展開ですが、この先の二人信じて見守って下さいね。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ゆうさん» お久しぶりです!もう、ウタゲ終わってキスブサもおやすみで、本当にニカ不足(・_・、) あ、でも、プレバトは、可愛かった!お話の方は、切ない展開ですが、リアル二階堂くんに癒やされながらがんばります! (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - 由夏さん» ありがとう(ノД`)でも、ちょっと切なすぎる展開。二人が強く心を繋いでいてくれると信じて、書き続けます。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - amiさん» お久しぶりです(*´∀`*)ノamiさん。切ないけれど、お互いを求め、思いやる気持ちが伝わっていたら嬉しいです。思いやるあまりに少しずつズレてしまった思いが、この先、どうなっていくのか見守って下さいね。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - chizuruさん» 秋の夜長のお供になれたでしょうか?こんな切ないシーンお供にしてもいいのかなぁ。でも、そう言ってもらえて嬉しい。そして、どこか当てはまる歌詞が切なさの中に温かさを感じさせてくれる。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:植尾あい | 作成日時:2015年7月23日 7時

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